米国学者の卵の摂取制限論文に多くの異論
英国鶏卵産業協会 反論をIECホームページに掲載
英国鶏卵産業協会(BEIC―マーク・ウィリアムズ事務局長)は3月18日、米国ノースウエスタン大学のビクター・W・チョン博士らが、世界で最もよく読まれている医学雑誌の一つの「JAMA(米国医師会雑誌)」に発表していた論文に反論する文書を、国際鶏卵委員会(IEC)のホームページに掲載した。
対象となったチョン博士らの論文のタイトルは「コレステロールや卵の摂取と、心血管病・死亡率の相関」。JAMAには毎号多数の論文が掲載されており、その中の一研究として、30年以上前のものを含めた6つの疫学調査のデータを掘り起こしてまとめたもの。結果として、調査の参加者が最初に自己申告した卵やコレステロールの摂取量と、その後の疾病や死亡の間に、統計学的に有意な相関がみられたことを示しているだけだが、論文の末尾では、あたかも卵の摂取と疾病や死亡に因果関係があるかのように「食事摂取基準の見直しが必要」と結論付けていることが問題視されている。
米国のマスメディアも、同論文によって卵と疾病や死亡との間に因果関係が新たに示されたかのように報じたため、鶏卵産業の関係者や、栄養学の専門家からも疑問や異論が噴出していた。
論文著者と同じノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院のクレイグ・ガースウェイト教授もフォーブス誌電子版で、肉の摂取量など他の変数を補正すると、卵と冠動脈疾患の相関自体が消えてしまう場合があるため、後述する残差交絡が疑われることや、統計を取ると同様の相関関係はよくみられることなど、同論文にはいくつかの問題点があることを指摘したうえで、相関関係と因果関係の違いはマスメディアに正確に報じられにくく、誤った認識が増幅する傾向があり、また政策決定のために不十分なデータが提供されることもあるような時代に、実績を上げるために論文を乱造することが学界全体の問題になりつつあると批判している。
BEICの反論文書の概要は次の通り。
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英国保健省と英国心臓財団を含む、英国のすべての健康・心臓病関係の諮問機関は現在、卵などの食品から摂取したコレステロールは、大多数の人において心臓病のリスクを上げないと勧告している。かつて設定されていた卵の摂取制限は、英国では10年以上前に撤廃された。
登録栄養士(Registered nutritionist)のジュリエット・グレイ博士は「新たな研究の成果は興味深いが、これまでの〝1日1個の鶏卵消費は大多数の人の血清LDLコレステロール値に臨床的に有意な影響を何ら与えない〟という、しっかりした研究による相当な重要性があるエビデンスと矛盾している」と述べている。
論文に示された相関は、各疫学調査の開始時に、参加者が〝スナップショット〟的に(1回だけ)自己申告した、栄養や卵、コレステロールの摂取量に基づいている。
各論文の開始時は、1985年から2005年までと幅広く、この間に米国人の食事内容は大きく変化している。
卵やその他の食品の摂取頻度を把握するためにそれぞれ異なる食事評価手法を用いている6つの異なる疫学調査から得たデータの分析には、多くの臆測が含まれている。同論文は、多くの食事内容や生活習慣の違いを補正しているとはいえ、著者の認識には残差交絡(A〈例えば卵の摂取量〉とB〈死亡率〉という全く異なる要素が、グラフにすると似たような分布をしている場合、本当はAとX〈例えば食べ過ぎや肥満〉が相関しているにもかかわらず、AとBが相関しているように見えるため、間違った結論に至ること)があるとみられる。
近年の研究は、疾病発生時における各食品の影響度を分析するため、卵を肉類など他の食品と分ける重要性を強調している。
グレイ博士は「卵を多く食べる人は、歴史的にソーセージやベーコンなどの畜産加工品も、伝統的な朝食やファストフードの中で多く食べることが知られている」と述べている。畜産加工品には多量の飽和脂肪が含まれ、これは心血管病のリスク要因として知られている。
今回の論文は、分析結果でみられた有意差について多くの制限があることや、結果は因果関係ではなく相関を示していることを幾度も強調している。血清LDLコレステロール値や、その他のリスク要因については全く評価していない。発症のメカニズムについてのエビデンスは全く示されていない。
BEICは、フランク・フー教授が実施し、1999年にJAMAに掲載された研究結果にも注目している。この論文では、週2~4個の卵の摂取は、心臓病の有意なリスクにはならないことを報告している。
今回、「週3.5~4.5個の卵の摂取と、心血管病のリスクや死亡率との相関」について報告した新たな論文で示されたリスクは、実際には20年前に掲載された論文で〝有意ではない〟と解釈されたリスクデータより低い。