NHK・Eテレで卵料理の魅力を科学

『黄身返し卵』『魯山人の卵かけご飯』『究極の目玉焼き』紹介

八田教授や峯木教授が監修

NHK・Eテレの科学番組「すイエんサー」で、卵料理の魅力が続けて取り上げられ、卵の研究や料理の専門家が監修した『黄身返し卵の作り方』や『北大路魯山人の卵かけご飯』『高級ホテルの究極の目玉焼き』が紹介された。

すイエんサーは、一見難しそうな課題に、「すイエんサーガールズ」が科学の力を使った〝スゴ技〟で挑むという設定の番組。

9月1日放送回「魔法のお弁当を作っちゃおう!」では、京都女子大学家政学部食物栄養学科の八田一教授が監修した『黄身返し卵の作り方』が〝スゴ技〟として紹介され、「すイエんサーガールズ」が、回転の力で卵黄膜を破る作り方に挑戦した。

9月15日放送回「卵かけごはん&目玉焼きにも究極があった!」では、北大路魯山人が「この世で最もうまい」と言ったという『卵を手のひらで30分間温めて作る卵かけご飯』の作り方を紹介。こちらも八田教授の監修のもと、すイエんサーガールズが手のひらで30分間温め続けた卵を、ご飯に混ぜて食べたところ「全然違う」「卵の濃さがグッと濃くなった」との感想が上がった。

番組スタッフの評価も、40点満点中37点と、①ご飯に醤油をかけてから卵を混ぜる(29点)②卵白とご飯を混ぜてふわふわにしてから黄身を入れる(25点)――の2方法より高かった。

おいしさの理由については、八田教授が「人間の舌にある味蕾(みらい)は、温度が高いと『旨味』を感じやすい」ことを解説し、実際に味覚センサーで調べると、旨味は温める時間が0分→5分→15分→30分と長くなるほど強くなっていることや、19度Cの卵を30分温めると、ほぼ人肌の33度Cになることなども紹介。〝裏ワザ〟として、卵とご飯をしっかり混ぜてから、500Wの電子レンジで20秒間加熱する手軽な作り方も紹介した。

『究極の目玉焼き』は、高級ホテル(ホテルニューオータニ)統括料理長の太田髙広シェフが伝授。

「200~220度Cのオーブンで2~3分焼く」というホテルの目玉焼きが再現できる①ザルで水様卵白を取り除いた卵を用意②フライパンを弱火にかけ、バターを塗り、塩を少々振る③その上から卵を、低い位置からそっと置く④水を入れずふたをして3分間焼く――という手順で、すイエんサーガールズが調理に挑戦した。

卵を低い位置からそっと置く理由は、東京家政大学の峯木眞知子教授(副学長)の監修で、黄身の小さなつぶ(卵黄球)は、10センチメートルの高さから落としただけでつぶれてしまうことを解説。

残った水様卵白は、スープに回し入れて、かきたま汁にすると良いことも紹介した。

半世紀以上受け継がれる研究が基に

番組で放映された「魯山人の卵かけご飯」の作り方や考察は、2015年の京都女子大学食物学会誌第70号掲載の研究報文「北大路魯山人の卵かけご飯―おいしさの客観的評価―」(河江美保、山下真由子、八田一)が基となっている。

同論文では、大正末期から昭和にかけての食生活をまとめた「日本の食生活全集」という本に、家で飼っている鶏の卵と炊きたての麦ご飯で作る朝食が紹介されていることや、魯山人が「手のひらに卵を持って30分ほど温めてから、卵かけご飯にしたものが一番おいしい」と語ったという逸話などを紹介した上で、女子大生8人が実際に手のひらで30分間温めた卵の卵内温度を測定。

卵内温度は平均34.9±0.7度Cまで上がったことから、35度Cと55度Cに加温した卵と、8度Cで冷蔵した卵(Mサイズ)を用意し、ご飯(一杯150グラム)の温度も精密に測定(8度Cと35度C、55度Cの卵を混ぜた時点でそれぞれ54.7±1.4度C、62.3±1.4度C、65.5±1.0度C)。「異なるブランド卵の卵かけご飯」としてパネリストに提供し、官能評価を依頼したところ、いずれも35度Cと55度Cの卵を使った卵かけご飯の旨味や甘味が、8度Cの卵を使った卵かけご飯より有意に優れていたとの結果になった(35度Cの卵と55度Cの卵の間では有意差なし)。

論文の最後では、食品の物理的な測定値に加えて「料理の演出や空間にまでこだわる魯山人であるから、意識的に手のひらで卵を30分温めるという手間のかけ方を考案して、世間においしい卵かけご飯を紹介したのではないか」と考察している。

同論文には、1959(昭和34)年当時の京都女子大学の3回生が同学会誌第7号に発表した論文「食物と感覚」で示された「室温の甘味は0度Cより4倍高い」との知見が引用されている。

この1959年の論文では、甘味だけでなく塩味、酸味、苦味の温度による感じ方の違いや、視覚や嗅覚、触覚(舌触りなど)、聴覚の役割も総合的に考察している。

「食物と感覚」の関係は現在、最先端の研究テーマの一つとなっているが、京都女子大の研究は今から61年前で、さらにこの中で引用されている国内外の論文には、84年前のものもあるとのこと。卵料理の魅力についても、このような先駆的な研究が連綿とあって、現在のテレビ放映などにもつながっているようだ。

61年前の論文について八田教授は「特に温度と味覚の閾値(味が感じられなくなる境界)の関係を調べて考察している点は、当時の女子大生が行なった研究としては斬新であり、特筆すべき」とし、「世界的には『Effects of temperature on the perceived sweetness of sucrose(ショ糖の甘さの感知に関する温度の影響)』(Bartoshuk LM, Rennert, K, Rodin J and Stevens J C,1982)が有名だが、その20年以上前に、同じ内容の知見を日本の京都女子大生が見出していたことに感激した」と評価している。