次シーズン前に鳥インフル対策の見直しへ

発生要因などを総合的に考察
家きん疾病小委員会と疫学調査チームが合同で

農林水産省は5月14日、令和2年度に18県・52事例で発生した高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の対応を検証する家きん疾病小委員会と疫学調査チームの合同会議を開き、HPAI発生の総合的考察と、次シーズンに向けた提言をまとめた。5月18日の閣議後会見で野上浩太郎農相は、合同会議や自民党からの提言を受けて「防疫指針や飼養衛生管理基準の見直しに早急に着手したい。鳥インフルエンザの次期のシーズンが始まる前に対策を取れるよう、対応を進めたい」と述べた。

合同会議で示した「令和2年度におけるHPAI発生の総合的考察」の概要は次の通りで、侵入経路などの多くは可能性の示唆にとどめている。

発生農場の特徴

家きん農場のHPAIは、11月5日に香川県で発生が確認されて以降、関東以西の18県、52事例の発生が確認された。野鳥については、10月24日に北海道の野鳥糞便からウイルスが分離され、その後、北海道から鹿児島県までの全国各地の死亡野鳥や野鳥糞便などの合計58件からウイルスが確認された。このことから「国内の広い範囲に本病に感染した野鳥が分布していたことが、広範な地域の農場で発生が起こった要因と考えられた」としている。

経営形態別の発生は、採卵鶏が32例、肉用鶏が14例、採卵用・肉用種鶏が4例、アヒルが2例。鶏舎の構造は、採卵鶏は32例中22例(69%)がウインドレス鶏舎、肉用鶏はすべて開放鶏舎。種鶏は4例中2例(50%)がウインドレス鶏舎、アヒルはすべて開放鶏舎。

発生農場の周辺環境としては、①河川に近い山林に面した②水田に囲まれた③ため池に近い――農場が多く認められた。農場の近くで、カモなどの水きん類が利用する可能性のある環境が認められたほか、千葉県の事例では、農場周辺は刈り取りの終わった水田であることが多く、「水きん類が飛来し、これらの環境を利用した可能性も考えられる」としている。

香川県や千葉県のように、同一の地域で複数の感染が認められた事例については、先に発生した農場が他の農場への感染源となった可能性もある一方で、ウイルスの遺伝的特徴から近隣の発生であっても、同一の感染源からの一連の発生ではなく、複数のウイルスの侵入により発生が起こった可能性もあるとし、「鶏舎構造や農場周辺の環境と発生リスクの関係は、今後、非発生農場の状況と比較して検証する必要がある」としている。

分離ウイルスの特徴

H5N8亜型の分離ウイルスの特徴としては、2019年から2020年にかけてヨーロッパで家きんや野鳥から分離されたウイルス(欧州19-20冬グループ)と、2020年に同じくヨーロッパで家きんや野鳥から分離されたウイルス(欧州秋グループ)の2つのグループ分類され、遺伝子分節の系統樹解析結果から、欧州19-20冬グループ(E1型)もしくは欧州秋グループ(E2型)に由来するウイルスのほかに、E1グループのウイルスと野鳥に常在する鳥インフルエンザウイルスとの遺伝子再集合ウイルス(E3型、E7型、E5型)が存在し、「全部で5つの遺伝子型のHPAIウイルスが国内での発生に関与していることが明らかになった」としている。

ウイルスの病原性については、遺伝子型の違いで鶏での病態が異なる可能性が示されたが、鶏の発生事例では時間の経過とともに死亡羽数の増加、アヒルでは産卵率の低下や神経症状の異常な個体がみられるなどの所見が得られていることから、「死亡羽数の増加や産卵率の低下は、HPAI疑いの早期発見・早期通報に有効な指標であった」としている。

国内への侵入時期・経路

今シーズンの発生ウイルスは、過去に国内で分離されたウイルスと遺伝学的に異なることが分かっており、今回の発生は「海外から新たに侵入したウイルスによるものと考えられる」とした。

また、ウイルスの遺伝子の一部は今冬に韓国で分離されたウイルスと近縁であったことなどから、「海外から国内へのウイルスの侵入機会が複数あったのか、あったとすれば、どのような地域から侵入した可能性があるのかについては、今後、検証する必要がある」としている。

農場・家きん舎への侵入

発生鶏舎にウイルスが侵入した経路については、疫学調査で長靴を交換していないなどの衛生対策の不備や、鶏舎の破損による野鳥や猫などの野生動物の侵入の可能性がある事例が認められた。一方、疫学調査時の聞き取りで衛生対策を行なっているとの結果であっても、その実効性を評価することは困難であり、鶏舎に明確な破損がない場合でも、ほとんどの場合、ネズミなどの小型野生動物が侵入した可能性があったと考えられ、「このことがウイルスの侵入要因となた可能性に注意が必要と考えられた」としている。

また、同一の地域での発生については「周辺の発生農場が感染源となった可能性があるが、強制換気の排気による鶏舎外への羽などの飛散が立ち入り調査時に認められており、今後、このことによる感染拡大リスクについても検証していく必要があると考えられる」としている。

わが国の防疫対応

農林水産省では、高病原性鳥インフルエンザに関する国際的な発生状況や、令和2年秋の渡り鳥飛来時期が本格化する前に警戒が必要とする通知を都道府県に発出するとともに、都道府県でも家きんの飼養農場に情報提供を行ない、必要な防疫人員や防疫資材の確保に備えた準備を行なっていた。これらの結果、飼養者、都道府県、国などの関係者間で、本病に対する危機意識の共有と発生時を見据えた態勢の構築が図られ、「このような発生前の備えが、単発で発生した事例で有効であったと考えられるが、一部地域で多数の農場で連続的な発生が認められた事例では、来シーズン向けて課題を残す結果となった」としている。

また、今回の事例では100万羽を超える規模の採卵鶏農場で複数発生があり、防疫措置に時間を要するとともに、埋却場所・焼却先の選定に苦慮するケースがみられ、「大規模養鶏場での発生を想定した資材準備、動員計画の立案、焼埋却先の選定などの事前準備が重要であると考えられた」としている。