全日畜がワークショップ 「災害に強い畜産経営」テーマに

昨年9月の台風15号で受けた被害などを報告し、意見交換した

(一社)全日本畜産経営者協会(略称・全日畜)は9月4日、千葉市中央区のホテルポートプラザ千葉でワークショップ「自然災害に強い畜産経営を目指して」(千葉会場)を開いた。

ワークショップは、日本中央競馬会の畜産振興事業「自然災害に強い畜産経営の実現調査事業」(令和2年度から2年間)の一環で開いたもので、ワークショップやセミナーを開き「畜産経営災害危機マニュアル」をまとめる。千葉会場では県内の畜産関係者らが昨年9月9日の台風15号などで受けた被害などを報告し、意見交換した。

千葉県農林水産部畜産課生産振興班の丸山武則班長は、昨年の台風15号と19号、10月25日の大雨の影響による被害の概要と県の対応、行政機関の支援のあり方について「畜舎などの関連施設が損壊し、長期の停電により生乳生産や家畜の飼養に大きな被害があった。県独自の取り組みとして台風15号などによる被災で死亡・廃用した乳牛・母豚・採卵鶏に代わる家畜の導入支援を実施し、国の事業を活用して畜舎修理のための資材供給や発電機の借り上げなどを推進した。気象災害に伴う停電や断水による生産活動への影響を最小限にするため、各経営体に非常用電源設備の導入を推進する。施設の損壊や家畜の死亡などの直接的な被害に備えるため、災害に強い畜舎の整備と家畜共済への加入を推進するとともに、関係機関との連携を図る」などと述べた。

㈲高秀牧場(酪農)の高橋憲二社長は、台風15号で5日間の停電と断水、出荷先の機能不全に伴う生乳の廃棄、牛舎や堆肥舎、倉庫、屋根などの損壊を経験し、「今までに経験したことがない風雨で、想定をはるかに超えていた。停電のため大型発電機による自家発電に切り替えて搾乳し、地下水を汲み上げて5日間分の水も確保した。電気がないと何もできないため、発電機は用意しておく必要がある。災害時の売り上げを補償するような保険があれば入ったほうがよい。こういう時こそ助け合いの精神が大事だと思う」などと述べた。

北見畜産㈲(養豚)の北見則弘社長は、台風15号で豚舎の屋根が飛んで母豚35頭の死亡、2日間の停電、4日間の道路遮断を経験し、「2日目に電気が通り、水も確保できたが、母豚にストレスがかかって死んだ。片付けも大変だった。一番困ったのが農場に行けないことで、普段は自宅から約20分だが、最初は1時間半くらいかかった。今回のテーマに関しては、基本的には備えるしかない。『一度壊れても次に直せばいい。それからまた始めればいい』という気構えを経営者が持つことが最大の強さだと思う」などとした。

㈲サンファーム(養鶏)の林共和社長は、台風15号で3日間の停電、発電機がオーバーヒートして鶏3万2000羽の熱死、ひな300羽の死亡、人海戦術による集卵を経験し、「3鶏舎で合計3万2000羽が死んだ。成鶏舎に入れて約3週間の一番若いロットが1万2000羽も死に、死骸を鶏舎から搬出する作業はやるせなかった。このようなことになったのは経営者の責任で、備えが足りていなかった。停電になってから発電機の問い合わせをしても借りられない。堆肥舎も被害を受けて使えないため、鶏糞の発酵がうまくいかず、元に戻すのに時間と労力、お金がかかる。サンファームでは停電1日目の夜から集卵できるようになったが、それまでは手集卵で、取りきれないのが現実だった。発電機の燃料の確保が難しい。普段からの近隣との付き合いが大事だと思う」などと述べた。

千葉県全日畜の瓦井哲夫事務局長は、配合飼料メーカー11社が実施した畜産生産者への支援内容について「一番大きかった被害は停電で、次いで断水と家畜の斃死、畜舎などの崩壊。飼料メーカーは職員を派遣して被災状況を確認し、被害畜舎の処理や死亡家畜・家きんの処理などを支援した」とした。

中部飼料㈱鹿島工場の竹中一展営業課長は、畜産生産者への支援内容について「飼料の継続的供給に問題はなかったが、道路の寸断が障壁になり不通路を回避する情報を運送業者らと共有した。畜産生産者の要望に応じて延べ7日間、15人が斃死家畜の回収、生産物の回収、畜舎の修繕作業などを支援した」と説明。現場では、①発電機が確保できない②運搬用トラック(ユニック車)も確保しづらい③発電機の容量によってユニック車とは別にクレーン車が必要になる④発電機を積んだトラックが農場への進入路や発電機の設置場所に入れない⑤電気工事士の確保⑥燃料の継続確保――が支障になったため、現実に近い被害を想定したシミュレーションと、災害対応マニュアルの準備が重要だと強調した。

東金酪農業協同組合の長嶋透氏(全日畜理事)は、生産した生乳が現場で廃棄される辛さや、生産物を消費者に届けられないもどかしさ、ネットワークの大切さなどについて話した。

意見交換では「自然災害では何を大事にし、何をあきらめるかを考えなければだめで、すべてをやろうとしても無理がある」(北見社長)、「中小規模や家族経営の人たちに対し、自然災害への備えの意識を高めることが重要だと思う」(高橋社長)、「目の前のことで手一杯の時に、県養鶏部会のグループLINEで情報を共有できた。仲間とのやりとりで勇気づけられたし、ありがたかった」(林社長)などの意見が出された。

(一社)全日本配合飼料価格畜産安定基金の引地和明常務理事(全日畜監事)が「水とエサ、電気をいかに確保するかが大事。時間との戦いの中で、自分の日頃からの経験とセンスで対応するしかないのが現実である。一言で言うと『備え』だが、心構えを自分でどう整理するか。マニュアルはその材料のひとつでしかない。発電機などの物の備えも大事である」などと述べて終了した。