農水省は一次案への回帰とさらなる研究の必要性指摘

最終局面迎えつつあるOIE採卵鶏AW基準

二次案の巣箱や止まり木義務化に危機感

世界の動物衛生の向上を目的とする国際獣疫事務局(OIE、加盟182か国、本部=フランス・パリ)は昨年11月22日に、OIE陸生動物コードに追加する「採卵鶏のアニマルウェルフェア(AW、日本語定義=快適性に配慮した採卵鶏の飼養管理)基準」のコード委員会の二次案を加盟国に示し、意見を求めた。

同案の一次案では「営巣の区域」や「止まり木」を『設ける場合は』としていたが、二次案では『備えられるものとし』と〝義務化〟を示す文言に変更されている。

二次案が各国に正式に示される前に、このような変更が検討されていることを聞いた日本の生産者は「採卵鶏の95%を従来型ケージで飼養している日本の養鶏場すべてに巣箱や止まり木を設置することは不可能で、仮にこのような基準が採択されると、生産者にとっては大きな打撃となる」とし、11月12日に農林水産省に対し、「日本特有の夏の高温多湿な気候風土や、鶏卵の衛生管理ができる生産条件、『生食』できる安全性など、日本の実情に配慮し、消費者に安全・安心な鶏卵を安定的に供給できるOIEの採卵鶏AW基準」ができるように、次の4点を理解したうえで対応してほしいと要請した。

①鶏卵は、国民の動物性たんぱく源食材として安全・安価・安定供給を最大限考慮した対応が必要。

②鶏は、清潔で、安全な環境下で、健康に飼育されることが重要。

③欧州のAW基準が、家畜である鶏にとって、苦痛の排除につながっているかは、必ずしも科学的に証明されたと言えず、むしろ従来型ケージ飼養が、鶏の「本来の欲求」や「苦痛の排除」を科学的に研究し、改善を重ねて現状に至ったもので、結果として高い産卵率や生存率となっていると考えるべき。

④わが国の気候風土(夏の高温多湿)や、高い土地代と資材価格などの経済的観点も十分考慮した、わが国に適した採卵鶏のAWが検討されるべき。

生産者は署名集め政治・行政へ要望

さらに(一社)日本養鶏協会と(一社)国際養鶏協議会は、合同で「AW対策協議会」の立ち上げを決め、全国の生産者や関係者が一致団結して政治・行政に訴えることが必要だとして、緊急にOIEの採卵鶏AW条項に関する要望書を作成して署名集めを行なった。内容は「①新OIE基準案では『止まり木』や『巣箱』の設置が必須とされていますが、必須とならないよう反対していただきたく、お願いいたします②『現在のケージ飼養』もAW対応の選択肢の一つとしてOIE条項に加えられるよう、強く働きかけていただきたく、お願いいたします」というもので、今後、署名をもって関係筋に要請することにしている。

農水省もOIE連絡協議会を開いて議論

農林水産省は昨年12月19日に、平成30年度第2回OIE連絡協議会を開き、動物衛生サーベイランスや各種感染症について検討したほか、OIEコード委員会による採卵鶏AW基準の二次案について意見交換した。

同案について鶏卵生産者代表は、いくつかの理由を挙げて「現実的でない」とした。一方、学識委員からは「AW問題について世界的な変化が起きていることを認識する必要がある」などの意見が出たが、「なぜ二次案で巣箱と止まり木の設置を義務化する案になったのか」や、「そもそも必要なのか」などの理由がはっきりせず、事務局を務めた農林水産省は、「日本の風土、気候条件にあった飼い方や科学的データも踏まえ、日本としての意見をしっかり検討したい」とした。

日本の実情を知る多くの人々も疑義

世界各国のうち、特にEUと米国で進む採卵鶏の非ケージ化(平飼いや放し飼い)については、実際に鶏を飼養した経験を持つ専門家を含む、多くの人々が疑義を呈している。その要点は、

①日本の戦後の採卵養鶏も平飼いから出発したが、コクシジウムなどの鶏病から鶏を守るために、鶏を土や鶏糞から分離するバタリーが開発され、これが金網のケージに変わり、現在の多段式ケージに発展してきた。

②日本では卵の生食文化が根付いているが、これもケージ飼育でサルモネラワクチンを使用し、また生産した卵は洗浄して冷蔵庫で保管することを前提として賞味期間(生食可能な期間)を採卵日から21日以内に抑えていることで実現できている。

③ケージ飼育によって、自動給餌・給水や除糞、換気や温度などの環境コントロール、ワクチンを中心とする鶏病管理技術が進歩し、鶏は病気や他の鶏の攻撃(尻つつき)などに苦しむことが少ない、快適な環境で飼養されるようになった。

④加えて鶏の改良も進み、産卵率の向上だけでなく、鶏の習性としても、必ずしも巣箱や止まり木を必要とせず、ケージ内で産卵するようになったため、衛生的な卵が人々に安定供給されるようになった。

⑤これまでのIEC会議で紹介されたケージ飼育(一部エンリッチドケージ含む)と、平飼い、放し飼いの比較試験では、ケージ飼育の方が飼料摂取量が少なく、産卵個数も多い。また、温室効果ガス排出量も少ないため、経済性や生産性だけでなく、環境保護の面からも、ケージ飼養が最善の鶏卵生産システムと評価されている。

⑥仮に非ケージ飼養のみで鶏卵を生産することになれば、1羽当たり飼育面積がより大きくなり、人手も多くかかるため、国産鶏卵の供給量が現在の半分以下に減る可能性や、疾病の多発も懸念され、世界的に薬剤耐性対策が叫ばれる趨勢にも逆行しかねないことが懸念される。

――などとなっている。

「飼養管理手法が確立していない」

多くの生産者は、欧米型のエンリッチドケージや非ケージシステムの導入が義務化された場合、高い建設コストなど経済的な面だけでなく、飼養管理面でも、巣外卵の発生や、巣箱が糞などで汚染される可能性、止まり木の設置などで鶏の順位づけができることによる尻つつきや斃死率、骨折などの増加、疾病や寄生虫の増加などを危惧している。

農林水産省では、OIEコード委員会の二次案について、巣箱や止まり木の設置を義務付けるのではなく、一次案の『設ける場合は』に戻すことを基本とし、科学的データを示す文献なども添えて意見を提出したとのこと。

その中では、「エンリッチドケージでも、ヒビ卵や汚卵、尻つつきを増加させない飼養管理手法が確立する前に、巣箱や止まり木の設置を必須とするのは適切ではないと考える」や、「生産システムの設計は、複数の要素を考慮して決定されるべきであり、設置により動物の健康や食品安全のレベルを低下させてしまう場合には、営巣の区域を設けない管理手法も選択可能とすべきであると考える」など、さらなる研究が必要なことを指摘している。

OIEは、加盟182か国からの意見を踏まえ、今年2月のコード委員会で再度審議し、加盟国の支持が見込まれる案をまとめ、5月のOIE総会でOIE国際基準としての採択を目指すことにしており、その動向が注目されている。