国産鶏卵・鶏肉の『価値』発信を 消費拡大のチャンス到来
シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア、メキシコ、カナダ、日本の12か国が参加し、輸入関税の原則撤廃などを内容とするTPP(環太平洋経済連携協定)交渉が大詰めを迎えている。
農畜産物の重要5項目に含まれる牛肉、豚肉の関税は、維持されたとしても大幅に縮小されるとみられている。重要5項目に含まれない鶏卵・鶏肉の関税は、せめて昨年合意した日豪EPA並み(鶏卵のうち殻付卵の17.0%は維持し、卵白は即時無税、全卵と卵黄の液卵・粉卵は3~5年で無税。鶏肉は、8.5%の骨付きももを6.8%、11.9%のその他鶏肉を10.7%、6.0~21.3%の鶏肉調製品を3.6~19.1%に引き下げ)に納まることが期待されているが、7月14日付の朝日新聞は「日米両政府は、鶏肉と鶏卵の関税を一定期間を設けて撤廃する方向で最終調整に入った」と伝えた。
関税撤廃により鶏卵・鶏肉とも加工用や業務用で輸入量が増加し、政府の試算では、鶏卵は国内生産量が17%、鶏肉は同20%程度減少するとみている。つまり、国内の産業規模が大幅に縮小し、鶏卵では約1億4000万羽の成鶏めす羽数のうち約2300万羽が不要になり、鶏肉ではブロイラーと地鶏を加えた約6億9000万羽の年間出荷羽数のうち1億3400万羽分の需要がなくなる計算になる。加えて人口減少と高齢化が重くのしかかる。
ただ、食の安全性から消費者の国産志向が強まっている。従って、国産の鶏卵・鶏肉の『価値』を強く発信して悪影響を少なくするとともに、新たな需要を開拓しなければならない。
幸い、鶏卵・鶏肉は、おいしさに加え、安価で良質なたんぱく源として食生活に定着している。畜産物の中では最も飼料効率が良く、低コストで動物性たんぱく質が生産できる。しかも鶏卵・鶏肉は、地場産業として地域経済を支えており、今後も、飼料用米などを通じた耕畜連携による『地方創生』の柱になる産業として期待できる。
鶏卵はビタミンCと食物繊維以外のほとんどの栄養成分を含む完全栄養食品で、これまではコレステロールへの誤解が消費拡大のネックになっていたが、今年に入り米国政府は「米国人のための食事ガイドライン」からコレステロールの摂取制限を削除するとし、日本の厚生労働省も「日本人の食事摂取基準」からコレステロールの摂取目標量を撤廃した。これにより、健常者はコレステロールを気にすることなく、卵を1日に2~3個食べても何ら問題がないことになった。
鶏肉も高たんぱく・低脂肪で、ビタミンやコラーゲンを豊富に含んでいるほか、近年は、抗酸化作用があるイミダゾールジペプチドを多く含む食品として注目され、抗疲労効果やうつ、認知機能への効果などが科学的に解明されつつある。
単身・2人世帯の増加や女性の社会進出、高齢化などもあって、消費者が家庭で料理する機会は年々少なくなり、総菜や加工品、冷凍食品を購入したり、外食することが多くなっている。こうした消費者ニーズに合わせて、業界を挙げて国産の鶏卵・鶏肉が積極的に加工や業務・外食で利用されるような仕組みを作ることで、関連業界も含め皆が潤う鶏卵・鶏肉産業にしたいものである。