薬剤耐性で情報提供 世界と日本の取り組み状況を紹介

薬剤耐性問題に携わる関係者らが多数参加した「薬剤耐性対策の今を知る会」

国際獣疫事務局(OIE)アジア太平洋地域事務所と農林水産省は12月2日、東京都文京区の東京大学弥生講堂一条ホールで「薬剤耐性対策の今を知る会~世界の動き、日本の動き~」を開いた。今年10月にモロッコで開かれた「第2回OIE薬剤耐性にかかるグローバルコンファレンス」での議論をはじめとした薬剤耐性(AMR)を取り巻く国際的な動向や、薬剤耐性対策アクションプランのもとで実施している国内での取り組みなどを紹介するために開いたもので、獣医療や畜産・水産業、獣医学教育、薬剤耐性問題に携わる関係者らが多数参加した。

冒頭あいさつした濱村進農林水産大臣政務官はモロッコで開かれた「第2回OIE薬剤耐性にかかるグローバルコンファレンス」に出席して日本の薬剤耐性対策を世界に発信したことや、日本政府と国際機関による薬剤耐性菌対策への取り組みを紹介し、「わが国では2016年4月に閣僚会議で保健衛生、動物衛生、農業における分野横断的な薬剤耐性対策アクションプランを策定した。アクションプランは2020年までの5年間で実施することを想定しており、今まさに折り返し地点に来ている。動物分野での対策は進んでいるのか、抗菌剤の慎重使用は生産現場に浸透しているのか、国際的な動きを見据えつつ、この会を機会に皆さんと一緒に考えていきたい」などと述べた。

OIEアジア太平洋地域事務所の釘田博文代表は「OEIと薬剤耐性問題」と題して講演。薬剤耐性菌問題と畜産の現状について、①多くの国で動物分野での抗菌剤の使用実態の把握が困難・不十分である②世界100か国以上で抗菌剤の流通に関してコントロールできていない(関係法令の未整備、または実施が不十分)③多くの国で農家は獣医師の監視なしで、ほとんど規制もなく抗菌剤を入手できる(過剰使用、不適切な使用が多い)④多くの抗菌剤の偽造品が流通している――とし、対応について「将来にわたって必要な場合に抗菌剤を適切に使用できることは、動物の衛生・福祉にとっても必要で、抗菌剤の適切な使用は食料安全保障や食品安全の確保の上でも重要である。各国獣医サービスにより抗菌剤の使用を適切に管理するためにも、国際社会の協力と支援が必要である」などと説明した。

2016年に策定した「AMRおよび抗菌剤の慎重使用に関するOIE戦略」の4つの目標(AMRに関する認識と理解の向上、サーベイランスと研究を通じた知識の強化、良い統治と能力向上を支援、国際基準の実施を促進)を紹介し、「ワンヘルスの考え方の下、FAO(国連食糧農業機関)やWHO(世界保健機関)と連携した世界的な取り組みが重要である。獣医師や畜産・水産関係者、教育関係者、学生、一般消費者も含めた広範囲な知識普及活動が重要で、OIEを通じた日本の支援は世界、特にアジア地域で重要な役割を担っている」と強調した。

動物医薬品検査所の木島まゆみ総括上席研究官と(独)農林水産消費安全技術センターの山本実理事は「NVALとFAMIC:AMRに関する活動とOIEコラボレーティングセンターとしての地域への貢献」と題し、動物由来細菌の薬剤耐性モニタリング(抗菌剤使用量の調査、指標菌・食品媒介性病原菌の薬剤耐性調査、野外流行株の薬剤耐性調査)や、抗菌性飼料添加物のリスク管理、OIEコラボレーティングセンターとしての取り組みを紹介。

農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課の岡村行岳課長補佐は「薬剤耐性を巡る国際的な動き:ワンヘルスの視点から」と題し、WHOやOIE、FAOなどの国際機関の取り組みを紹介した。

動物医薬品検査所の能田健総括上席研究官と川西路子主任研究官、農研機構動物衛生研究部門の佐藤真澄病態研究領域長、農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課の小澤真名緒課長補佐は「第2回OIE薬剤耐性にかかるグローバルコンフェレンス」の概要を紹介。会議でとりまとめた勧告の①分野横断的な連携の拡大(農業~消費者~獣医師~医師~環境、新たな枠組みでWHO・FAO・OIE+UNEP〈国連環境計画〉、政治的サポートの確認)②データの集積と解析(OIEによる抗菌剤使用量の調査=動物種ごと・農場レベル、抗菌性の分布と疫学〈ワンヘルスの視点=人・動物・環境、疾病との関連、ワクチン開発の優先順位〉③解決への展望(代替薬の開発と利用、動物種別の診療ガイドライン、成長促進目的の段階的廃止)④対象の拡大と新たな視点(伴侶動物の耐性菌、抗寄生虫薬耐性問題、行動学の視点、経済学の視点=コスト・ベネフィット解析)――について説明した。

薬剤耐性対策の優良活動事例として、大分県農林水産研究指導センター水産研究部の福田穣氏が「大分県の魚類養殖における感染症対策」、鳥取大学農学部共同獣医学科の原田和記准教授が「伴侶動物獣医師等に対する薬剤耐性菌および抗菌薬の適正使用に関する普及啓発」、農研機構食農ビジネス推進センターの山根逸郎氏が「養豚場における生産性評価システムおよび抗菌剤使用量評価システムを活用した抗菌剤使用削減の取り組み」、茨城県県北家畜保健衛生所の藤井勇紀氏が「茨城県の畜産におけるAMR対策」を紹介した。

日本養豚開業獣医師会の呉克昌代表理事は「飼養衛生管理の推進と抗菌剤の慎重使用:農場管理獣医師の立場から」と題して講演。農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課の戸谷理詩係長はワンヘルス動向調査年次報告書と、薬剤耐性問題の普及啓発ツール(動画、各種抗菌剤治療ガイドブック)を紹介した。