ゲノム編集技術で有用たんぱく質を大量に含む卵を産む鶏を開発 産総研と農研機構
産業技術総合研究所(産総研、中鉢良治理事長)バイオメディカル研究部門先端ゲノムデザイン研究グループの大石勲研究グループ長は7月9日、農研機構畜産研究部門の田上貴寛上級研究員らと共同で、医薬品などに使われる有用なたんぱく質「ヒトインターフェロンβ」を卵白に大量に含む卵を産む鶏を、ゲノム編集技術を使って開発したと発表した。
研究グループは、ゲノム編集技術の「クリスパー・キャス9法」を使い、雄鶏の始原生殖細胞の遺伝子のうち、卵白たんぱく質の主成分「オボアルブミン」をつくる指令を出す遺伝子の部分に、ヒトインターフェロンβの遺伝子を正確に挿入。これを別の雄鶏の初期胚に移植して孵化させ、雌鶏と交配すると、ヒトインターフェロンβをつくる遺伝子を持つ雌雄のひなが得られた。メスはすべてヒトインターフェロンβを30~60ミリグラム含む卵を5か月以上産み、オスは再び野生型のメスと交配すると、ヒトインターフェロンβの遺伝子を持つ雌雄のひなが再び得られた。このメスも、すべてヒトインターフェロンβを30~60ミリグラム含む卵を産んだことから、この技術によって組み換えたんぱく質を安定的に大量生産できることが分かった。
ヒトインターフェロンβは、10マイクログラム当たり約2~5万円もするなど非常に高価だが、今回開発した技術では、1個の卵に単純計算で6000万~3億円分のヒトインターフェロンβが含まれている。同技術を活用すれば、このような高価なバイオ医薬品や酵素が、はるかに安価に大量生産できる。すでに「ヒトリソソーム酸性リパーゼ(LAL)欠損症」など非常に珍しい難病の治療薬として、LALの遺伝子を導入した鶏の卵白から抽出したLALが薬として承認されており、養鶏産業が「バイオのものづくり」を担う産業に発展する可能性も出てきている。
ただ、ヒトインターフェロンβについては、卵白から精製する技術の開発が必要なため、研究グループは国内企業のコスモ・バイオ㈱と精製工程の研究を進めている。
クリスパー・キャス9法を使って得られた、卵白中の組み換えヒトインターフェロンβは、全体の5%しか活性を示さなかったが、ヒトインターフェロンβの変性状態は卵白のオボアルブミンの凝固など、加熱による変性に比べると元に戻しやすいため、100%の活性を容易に回復でき、市販の試薬と同等の効果も期待できるとのこと。
鶏の遺伝子についても、オボアルブミンの遺伝子があった部分にヒトインターフェロンβの遺伝子を正確に挿入している以外は、野生型と全く変わっていないため、卵の大きさや数が野生型より減少する傾向がみられたものの、鶏の健康状態は良好で、寿命も野生型と差がなかった。研究グループでは今後、インターフェロンβ以外の有用な組み換えたんぱく質の生産や、今回開発した技術のさらなる改良にも取り組むことにしている。