格外卵の低減など収益力向上の技術学ぶ 福岡で全農養鶏セミナー

山口県と九州各県、沖縄県の鶏卵生産者らが出席した

JA全農は10月11日、福岡市中央区のアークホテルロイヤル福岡天神で飼料情勢や鶏卵情勢、格外卵の低減と採卵鶏の長期飼育、サルモネラ動向に関する「全農養鶏セミナー九州2018」を開き、山口県と九州各県、沖縄県の鶏卵生産者や農協、経済連などの関係者が多数出席した。

主催者を代表してあいさつした全農福岡畜産生産事業所の末川正彦所長は「今年のJAグループのテーマは〝生産現場へより近く〟。生産者の収益力向上のために、育種改良が進んだ最近の採卵鶏の性能を引き出す飼料栄養や飼養管理技術について継続的に取り組んでいる。今回のセミナーでは格外卵の低減に関する取り組みの優良事例と、強制換羽をせずに長期飼育する最近の技術試験をテーマに講演する。渡り鳥が日本に飛来する時期になった。いま一度確認を含めて、鳥インフルエンザの防疫対策に取り組んでほしい」などと述べた。

飼料情勢

全農福岡畜産生産事業所単味飼料・原料課の林朗課長代理は、飼料原料の産地情勢について「今年の米国産トウモロコシの生育状況はおおむね良好で、例年に比べて生育が早く進ちょくした。現在のところ、例年をやや上回るスピードで収穫が進んでいる」とした。

需給見通しについては「南米は大幅な減産で、ブラジルとアルゼンチンを合わせて2650万トンの減産になる。米国産の単収は181.3ブッシェルで過去最高となる見通し。単収の増加を受けて生産量も増加する。需要面ではエタノール需要と飼料需要が好調で、生産量を上回るため、期末在庫率は11.74%で前年度を下回る見通し。今の需給は豊作を前提に構成されている」とした。

相場見通しについては「米中貿易摩擦問題と良好な米国の作柄が大きな下げ要因となる。期末在庫率から考えると、やや下げすぎの感もあるが、大豆の高水準な在庫率に引きずられ、シカゴ相場は低位で推移している。米中貿易摩擦問題に解決の兆しが見えるまでは現行水準での推移が想定される。FOBプレミアムは今後、堅調に推移し、海上運賃は上昇基調。為替は円安ドル高傾向だが、米国の中間選挙で政権に打撃があれば影響する」とした。

全農グレインの輸出能力の拡大については「輸出能力を増強するプロジェクトが完了した。米国最大のターミナルで、世界でも有数の規模である。パナマックス型への5万トン㌧の船積みは24時間で終了する。船の拘束時間を減らすことでコストを削減する」と説明した。

鶏卵情勢

JA全農たまご㈱九州支店の山田晃裕支店長代理は「日本は世界有数の鶏卵消費国であり、卵の生食は食文化といえる。そして、これらは鶏卵生産者や流通体制に支えられている。一方、人口は減少し、え付け羽数は増加傾向である中、再生産可能な卵価を実現しなければいけない。そのためには需要と供給のバランスを取ることと、需要拡大への取り組みを進めることが重要である。1人当たり年間365個の消費量を実現できれば、年間20万トン強の需要増加につながる」と説明した。

鶏卵の需給動向については「近年のえ付け羽数は東日本で増加傾向で、西日本は横ばいであったが、今年は東西ともに増加している。1人当たりの家計消費は近年を上回る水準で推移しており、家計消費以外の需要も伸びている。福岡M相場は200円に乗せた。現在の需給はタイトな状況となっており、12月に向けては強含みの展開を期待したい」などとした。

鶏卵の需要拡大に向けた同社の取り組みについては、①イースター・ハロウィーン企画②食育・啓もう活動③葉酸摂取④料理写真の共有アプリサービス『SnapDish』への投稿――を紹介。顧客ニーズへの対応では、オーガニックやNon-GM、卵かけご飯用「とくたま」、アニマルウェルフェア、生産者履歴について説明した。

格外卵とその対策

全農飼料畜産中央研究所養鶏研究室の榮田拓起氏は、汚卵・破卵の発生原因を究明することが格外卵の低減に最も有効であるとし、①クモの巣ヒビと線状ヒビ②ピンプルとピンホール③シミ卵とスジ卵④ボディチェック卵⑤汚卵⑥黄ばんだ卵⑦赤玉のはねかけ(粉ふき)――の発生原因を紹介。汚卵や破卵の特徴は、格外卵を低減させる重要な指標になるとした。

格外卵の現地調査では、先入観を持たずに卵の流れのすべてを調査して破卵の発生場所を特定するとし、「鶏舎が明るくて鶏が騒ぐ場合はピンホールやボディチェック卵が増える。飼育密度が高いと鶏が蹴ったヒビ卵が増える。ケージ内の滞卵は床網を引き上げると改善できる。卵をためすぎないようにエッグセーバーの調整も重要である。エレベーターでは卵が落下しないように調整する。フィンガーの劣化などにも注意する。バーコンへの乗り移り部では、卵が誘導板にぶつかって割れないように緩衝材などを取り付ける。集卵のスピードが遅くても卵は割れるため、破卵が最も少ないスピードを調べて全鶏舎を平均化することも有効である。ファームパッカー周辺では破卵が多いため、機械の調整は重要。汚卵を汚卵洗浄機に何回も通すと破卵の原因になる。一般道よりも高速道路を使ったほうが破卵の発生が少ないケースもあるため、破卵が多い場合には輸送経路を見直すことも有効である」などと説明した。

格外卵率と収益性については「格外卵をゼロにはできないが、格外落ちの相場をマイナス100円とすると、破卵1%は鶏卵販売価格キロ1円に相当する。廃棄卵は産んでいないことになり、産卵率が低下したことと同じである。10万羽規模の農場では、破卵率を1%改善すると、年間200万円以上の収支改善が見込めるという試算がある」と指摘。さらに格外卵の調査事例を紹介し、「最終的な破卵率だけをみても対策は分からない。細かく調査することで破卵の発生場所を特定し、無駄のない投資によって生産性を向上できる。多額の投資が必要な場合もあるが、設備の調整だけで大きな改善効果があるケースもある」と述べた。

換羽誘導を行なわない長期飼育の可能性

榮田氏は「現在の採卵鶏は育種改良により高産卵の長期持続が可能となっている」とし、全農飼料畜産中央研究所で実施した飼育試験(ジュリア、ジュリアライト、マリア、ボリスブラウンの4鶏種)の結果について「産卵率と日産卵量は高まっていく傾向にあり、体重も漸増傾向で、42週齢付近の体重で大きく改善した。飼料摂取量と飼料要求率はほぼ一定で、近年は卵重が減少傾向。ハウユニットは漸増傾向で、卵殻強度はほぼ横ばいであった。長期飼育には後半の産卵性能の持続性がカギになる」と説明した。

ジュリアで実施した長期飼育の試験結果については、①環境ストレスの影響を考慮して季節に合わせた飼料を給与する②低CP飼料でも前半にアミノ酸を高めることで、体重の減少を抑制する可能性がある③産卵ステージに合わせた飼料の給与が重要で、80週齢以降も換羽誘導を実施せずに90%以上の産卵率を維持する可能性がある――とし、「育種改良により高産卵化の傾向は今後も継続する。換羽誘導を実施しない長期飼育の管理法が国内でも徐々に増加していくと予想される。体重・卵重・産卵率・飼料摂取量といった日々のデータを緻密に管理・分析することが生産現場に求められる。データとマニュアルを基に、各鶏種のステージに合った栄養価の飼料給与が非常に重要になる」などと強調した。

卵殻質の改善については「採卵鶏の加齢に伴い卵殻強度は低下する。卵重64~65グラム付近を境に急激に破卵率が増加する。卵殻強度が弱い卵を産む鶏は、卵管のカルビンジン発現量が少ないことが分かった」とし、卵殻強化飼料『エスク2』の特長を紹介した。

サルモネラ動向

全農家畜衛生研究所クリニック九州分室の小野雅章室長は、サルモネラ食中毒について「かつては食中毒の原因の1位であったが、関係者の努力により減少の一途をたどっている。前年度の食中毒事件で原因が卵類と断定されたものはないが、原因調理品の中に卵を使った食品が含まれるケースは多い。鶏卵に付着していたサルモネラ菌が、調理段階の管理不足などにより増殖して食中毒が起きている恐れは否定できない。最近のサルモネラ食中毒は、SEやSTだけとは限らない」などと述べた。

サルモネラ検査については「鶏糞やホコリ、農場によるふき取り検査によるサルモネラ菌の分離やSE血清抗体検査などを活用して、農場にサルモネラ汚染があるかどうかを調べる。サルモネラワクチンを接種しているからといって、頼りすぎてはいけない。GPセンターでのふき取り検査も重要である。3S(SE、ST、SH)が分離された場合は、すぐに販売部署と卵の取り扱いについて協議する」と説明した。

全農畜産生産部推進・商品開発課の剱持和幸氏が「九州でのセミナー開催は今回が3回目だが、全九州では初めての開催。今年は札幌、香川、島根に次いで4回目となる。テーマは毎回変えているが、生産農場の収益力向上に寄与することが基本で、今回紹介した格外卵低減の取り組みは10年以上行なっているもの。換羽誘導を伴わない長期飼育は最新の鶏の産卵性能に基づいた提案で、来年から生産者の方々と具体的に取り組んでいきたいと考えている。また、生産環境改善による成績向上を図るために、環境調査に基づいた改善を提案していきたいと考えている」などとあいさつしてセミナーを終了した。