〝存続の危機〟のウズラ産業 減少続ける養鶉農家 上昇するコストの転嫁が課題
古くは古事記や万葉集に登場し、平安時代の書物にも肉の調理法が残されているウズラ。野生種は現在、絶滅危惧2類の希少種となっているが、〝ゴキッチョー(ご吉兆)〟と聞こえる元気の良い鳴き声から、室町から戦国時代には多くの武将に飼われていたといわれる。採卵用の家きんとしては、大正10年ごろから愛知県豊橋市を中心に本格的な飼養が始まり、関係者の間では「大正のうずらブーム」として記憶されている。
昭和16年には飼養羽数が全国で約200万羽にまで達したが、同18年に始まった第2次世界大戦による飼料不足などで、一時は産業として〝絶滅の危機〟に。戦後まもなく、豊橋市の鈴木経次氏が地元で再び養鶉を始めようと東奔西走し、繁殖を開始。その子孫が全国に広がり、昭和40年には200万羽、昭和59年には846万羽のピークに達した。
ただ、その後は輸入品のウズラ卵水煮の増加や飼料価格の高騰などで廃業が相次ぎ、平成21年の養鶉農家での鳥インフルエンザ(AI)発生も廃業を加速させた。養鶉業界関係者によると、全国の養鶉農家戸数は現在、昭和59年の10%以下となる32軒、飼養羽数もピーク時の約半分となる約425万羽(ひな含む)に減少し、スーパー向けのパック卵を供給している養鶉企業・団体に至っては、全国で8軒しかなくなっている。
ここまで減少が進んだ大きな理由として、他畜種に比べて高い生産コストを、なかなか川下に転嫁できない産業構造があるという。ウズラは体重150グラムの約7%に相当する重さの卵を産み続けるために、CPが20%を超える高たんぱくの飼料を必要とし、暖房にも経費がかかるなど、もともと生産コストが高い畜種だが、近年は飼料価格の高騰や高止まり、灯油価格の上昇、物流費の高騰などを吸収できず、経営は完全な赤字状態に。
一方、ウズラ卵の販売面では、基本的に水煮などの加工メーカー大手4社やスーパー各社など、買い手の意向が強い市場環境が続き、価格改定を求める声が販売先に届きにくい構造にあるといわれる。このような環境下で、特に4~5年前から、加工向けの生産農家の廃業が目立っている。
パック卵についても、生産コストの上昇で経営は厳しく、GPセンターなどへの設備投資ができなくなっているとのこと。
さらに最近、追い打ちとなっているのが、輸送費の上昇だ。
ウズラのパック卵は、スーパーでの平均販売個数が多くても1日1店舗当たり3~5パック程度とされるなど、ロットが小さいため、いわゆる宅配便のサービスに頼らざるを得ない中、大手運送業者が10月から、従来比約2倍の運賃値上げを通達。これがウズラ卵1パック(10個入り)当たり4~10円のコスト上昇に相当し、輸送ケースに入れるパック数が少ないと、1パック当たりの運送費はより大幅に上昇するとのこと。このため、産地からは「これを転嫁できなければ、パック卵の販売で得られる利益は完全に吹き飛んでしまう」との悲鳴が上がっている。
資材価格や人件費の高騰も続くなど、危機に直面するウズラ産業の実態について、将来展望などとともに養鶉関係者に取材した。