防疫対応のさらなる強化へ 薬剤耐性対策も強化 平成29年度家畜衛生主任者会議
農林水産省は4月20日、同省講堂で都道府県の家畜衛生担当者らを集めて平成29年度の家畜衛生主任者会議を開き、家畜衛生水準の向上、薬剤耐性対策、畜産物の安全性と輸出対策の方針などを説明した。
会議に出席してあいさつした山本有二農林水産大臣は、国内で発生した高病原性鳥インフルエンザ(AI)の防疫対応に従事した関係者に謝意を表し、「AIの発生に際して、農林水産省では確定診断の前に防疫方針を決定し、本省の職員を派遣して連携を密にするとともに、地方農政局、動物検疫所、動物医薬品検査所の職員の派遣や資材の提供など、できる限りの支援をさせていただいた。本日の会議では、発生対応から得られた教訓について意見交換する時間が設けられているため、関係者間で認識を共有し、防疫対応のさらなる強化につなげていただきたい」などと述べた。
【動物衛生課】
動物衛生課の所管事項を説明した熊谷法夫課長は、AIへの防疫対応について「昨年9月の防疫対策強化推進会議でロシアやアラスカの様子などを紹介して注意喚起してきた中で、発生への備えができていたと思っている。関係者と認識を共有して取り組んできたことが一つの大きな成果で、今回得られた教訓もあるため、経験を生かして次に備える。疑い事例の段階から、物資の調達や専門的な家畜防疫員の確保について、動物衛生課や関係団体に相談するほうが効果があるという経験をしていると思う。
疫学調査で得られた情報など、今回は具体的な情報発信に努め、生産者が文字や写真を見て分かりやすいような取り組みを心がけてきたが、至らないところがあれば改善していきたい。
予防だけでなく、発生した時の備えも大事であり、早期通報では、生産者と顔が見える関係を構築することが必要である。迅速な対応については、今回の12事例を見ても十分な形でできていたと思う。都道府県や家畜保健衛生所など現場に近い方々の意見も聞きながら、今年2月に飼養衛生管理基準を改正したが、実際の指導やチェックシートが大事だと思っている」などと述べた。
家畜伝染病の国内侵入防止の水際対策については「イラスト入りの消毒マットや、多言語による注意喚起のポスターを、各空港や港に置いている。日本の周りではAIや口蹄疫、アフリカ豚コレラが発生しているため、水際対策などでは情報を共有して取り組みたい。海外情報はできるだけ速やかにホームページで公開したり、県の家畜衛生主任者にメールで提供している」とした。
畜産物の輸出については「政府を挙げて農林水産物の輸出額1兆円を目指している中で、畜産物も健闘している。我々は解禁協議と、輸出事業者の手間の低減化に取り組み、特に米国とEUは輸出市場としても有望であり、輸出入でお互いに地域主義を適用できるような協議を進めている」とした。
農場HACCPについては「農場HACCP導入によるメリットについて、レギュラトリーサイエンス事業の成果が近々出ると思う。3月末時点で認証取得が103農場となった。実際に生産者をはじめ、スーパーや加工業者など実需者にもメリットがある。3月にはJGAPの家畜・畜産物の認証ルールが日本GAP協会から示され、農場HACCPへの取り組みが食材調達に対して推奨される基準として位置付けられている。レギュラトリーサイエンス事業の成果なども発信しながら、この取り組みに参加する生産者を増やしていきたい」と強調した。
動物衛生課の担当者からは、同課の組織と29年度予算、ゴールデンウイークにおける口蹄疫などの防疫対策の徹底、冬期の高病原性鳥インフルエンザの発生事例と得られた教訓、乳製品の検疫開始、諸外国での疾病発生状況、飼養衛生管理基準の改正、OIEの獣医組織能力(PVS)評価結果、畜産物の輸出に関する施策が報告された。
この中で、今回の鳥インフルエンザの防疫対応で得られた教訓と改善方向については、①ウイルス侵入防止対策=取りまとめる疫学調査報告書を踏まえて具体的な予防対策を助言・指導②関係機関・団体との連絡=連絡員の配置などの見直しが必要③防疫措置従事者や防疫資材の確保=平時から入手先や緊急連絡先の確認が必要④殺処分した鶏の死体などの迅速な焼埋却=埋却予定地の適地性の確認や第二候補地の選定、焼却施設と事前に調整しておくことが必要⑤移動・搬出制限の措置と例外適用=発生県以外に及ぶ場合は、速やかに関係県に連絡する必要がある。例外適用も関係者に事前に周知するなどの準備が必要――などを挙げた。
【畜水産安全管理課】
畜水産安全管理課の所管事項を説明した磯貝保課長は、薬剤耐性(AMR)対策について「昨年4月にわが国の行動計画が関係閣僚会議で決定された。畜産分野では、薬剤耐性菌を監視しながら科学的な根拠に基づいて抗菌剤を使用している。都道府県と連携して動向調査を行ない、食品安全委員会に人の健康への影響評価を依頼し、その結果を踏まえながら使用の制限や規制などのリスク管理措置を実施している。こうした取り組みは世界的に誇れるものだと考えているが、さらに強化する必要がある点がいくつかある。
わが国で抗菌性飼料添加物は、すべて成長促進目的で使用されているが、EUでは10年前に成長促進目的の使用を禁止し、米国でも今年1月から人の医療上重要なものは使用しないという動きになっている。EUはいろいろな国際会議で、成長促進目的での飼料添加物の使用を禁止するよう主張しており、多くの国が禁止している。
わが国では食品安全委員会が薬剤耐性の面で人の健康に影響あるかどうかを科学的に評価し、それに基づいて人に影響がないと評価したものについては使い、人に影響があると評価したものは使用を制限することにしており、これを今後も基本に考えたい。
ただ、評価結果を踏まえた使用の制限・規制が若干弱いところがあり、3月15日の農業資材審議会にも意見をうかがい、食品安全委員会が人の健康に影響があると評価したものについては、基本的に指定を取り消す方針を決定した。
これを踏まえて昨年度、食品安全委員会が人の健康への影響は中程度と評価したコリスチンとバージニアマイシンの2つは29年度中に指定を取り消し、30年の頭を目途に使用を禁止する方向で準備を進めている」などと述べた。
畜水産安全管理課の担当者からは、畜産物の安全性の確保、牛トレーサビリティ制度、獣医師と獣医療の提供、動物用医薬品の有効性と安全性の確保、飼料の安全性の確保に関する施策が報告された。
【その他関係部門】
このほか、動物検疫所の小倉弘明所長、農研機構動物衛生研究部門の坂本研一部門長、動物医薬品検査所の小原健児所長、(独)農林水産消費安全技術センター肥飼料安全検査部の荻野喜江部長、経営局の小林勝利保険監理官も、それぞれの取り組み状況を説明するとともに、29年度の方針を説明した。
【鳥インフルエンザの発生対応から得られた教訓を共有し、防疫対応のさらなる強化につなげてほしいとあいさつする山本有二農相】