食鳥協が地鶏・銘柄鶏セミナー 生産から販売までの各段階の課題を探る

(一社)日本食鳥協会(佐藤実会長)は9月30日、兵庫県姫路市の(公財)姫路・西はりま地場産業センターで「地鶏・銘柄鶏セミナー」を開いた。
平成28年度から3年間(公財)全国競馬・畜産振興会の助成を受けて実施する地鶏・銘柄鶏振興緊急対策事業の一環として開いたもので、あいさつした日本食鳥協会の佐藤会長は「地鶏・銘柄鶏は、食生活の多様化に対応した高品質な鶏肉の生産と、中小規模経営体を中心とした高付加価値生産を通じて、わが国の食生活と地域経済を支える重要な柱として期待されている。
また、国内遺伝資源の維持、わが国の気候風土に適応した鶏種の開発・普及、消費者ニーズへの迅速で適切な対応、海外での悪性伝染病発生といった不測の事態に対するリスクヘッジなど、重要な意義を有している。
さらに和食がユネスコの世界無形文化遺産に登録され、世界的な和食ブームが起こっている中で鶏肉輸出の促進の観点からも、和食に不可欠な地鶏・銘柄鶏の振興を図ることは喫緊の課題になっている」などと述べた。
セミナーでは、(独)家畜改良センター兵庫牧場業務課の朝倉康弘課長が「国産鶏種(地鶏・銘柄鶏)の生産構造と問題点」、日本獣医生命科学大学応用生命科学部の西村敏英教授が「地鶏・銘柄鶏肉の品質に高付加価値をつけるためには!」、全農チキンフーズ㈱の工藤裕治常務取締役が「中小規模地鶏・銘柄鶏の流通・販売上の課題」、深川養鶏農協黒かしわ・地どり推進部の長尾英樹部長が「初めての山口県産地鶏『長州黒かしわ』の生産から処理・販売まで」、㈱鳥芳の井元克典社長が「地鶏・銘柄鶏振興緊急対策事業全国地鶏リレー」と題して講演した。
朝倉課長は、各地域の地鶏・銘柄鶏の生産普及状況を紹介し、育種や系統造成、コマーシャルひなの生産と供給、生産体制と振興、流通上の課題を解決するためには①国産鶏種の定義の見直しが可能であれば、売れ筋となる地鶏とブロイラー間の鶏種開発に取り組む②海外との競争は極めて困難であるため、日本独自の鶏に特化した鶏種の開発に取り組む③スケールが小さい地鶏は、オリジナルであること自体が戦略で連携がとりにくいが、共通する部分で連携体制をとることも考えられる④将来的に各県での鶏種開発は困難になりつつあるため、家畜改良センターが作出した系統を活用し、各県のオリジナルの鶏種開発に取り組む――ことなどを提案した。
西村教授は、うま味物質の特徴として①うまみ物質単独ではユニークな基本味(うま味)を呈する②上あごに刺激が長く残る③食べ物に添加すると口中香を増強させる(風味を増強させる)――を挙げたほか、日本食鳥協会の事業で実施した国産チキンの優位性を示すための訴求ポイントの科学的証明では「国産鶏肉はヘキサナールなどの不快臭が弱く、その成分が少ない」「国産鶏肉はイミダゾールジペプチドの含量が多い」ことが分かったと説明。
地鶏・銘柄鶏肉に高付加価値を付与するためのアプローチとして「味だけでなく、香りや食感についても特徴を調べる。客観的なエビデンス(データ)より、訴求ポイントを分かりやすく、具体的に示す。地鶏・銘柄鶏の特徴が出やすい調理方法も示して特徴をアピールする」と紹介した。
工藤常務は、地鶏・銘柄鶏の課題として①規格や生産コストがバラバラ・不明確であるため、消費者が小売店や外食店舗で地鶏・銘柄鶏の価値を理解するのは困難である②生産ロットの関係から、と鳥日が制限されたり、チルド流通が困難で冷凍流通にならざるを得ない場合が多い③地鶏は生産コストが高いため、末端での販売単価も高くなり、毎日の食卓にのぼる食材にはならない④ブロイラーと同様、季節要因などで不需要部位が発生する⑤生産規模が小さい地鶏は、加工場が零細にならざるを得ず、機械化ができないなどコスト競争力がない場合が多い――などを挙げた。
地鶏・銘柄鶏の需要を喚起するためには「セットでの通年販売は、不需要部位(むね肉、肝など)の消化が進む料理法や加工品の開発が必須である。高品質の食材が売れるデパ地下や小売店、高級スーパーの売場を通年で確保する必要がある。地鶏などのおいしさや特徴を消費者に理解してもらうために、生産者や製造・卸側の人たちも小売側の立場で協力しなければならない。
外食産業とのタイアップも重要で、塚田農場などを運営するエーピーカンパニーは、3地域の地鶏(黒さつま鶏、みやざき地頭鶏、新得地鶏)を食材に取り入れている。モンテローザ(山内農場、丹波黒どり農場など)やチムニー(龍馬・上州地鶏・富士山麓軍鶏農場など)も地域色が豊かな地鶏を食材として料理メニューに採用している。料理メニューの開発で、不需要部位の消化に努めていることは賞賛に値する」などと述べた。
長尾部長は「長州黒かしわの種鶏の管理から孵化、素ひな育成、コマーシャル生産、ブロイラーセンターでの処理、出荷・販売までを一元管理することで、高品質を維持することができ、またより高い品質を目指すことができる」と強調。
平成27年度の出荷羽数は3万4000羽で、現在は約100社に納入。長州黒かしわを積極的に利用する料理店や販売店の「長州黒かしわ取扱店」は県内外に80店舗あり、〝やまぐちブランド〟〝ぶちうまファイブ〟など行政と連携した取り組みも進めているとし、販路拡大への取り組みとして①商談会や展示会への出展②バイヤーなどの産地招聘③東京でシェフを対象とした食材提案会の開催④有名料理人やシェフによるレシピ提案⑤希少部位(肝、砂肝)を活用した新メニュー提案会の開催⑥加工品(スモーク、味噌漬け、レトルトカレー)の開発――を挙げた。
井元社長は、自社の地鶏販売実績や、①野菜や鍋だし、つみれ、鍋のシメの麺など、他のものと組み合わせて価格を薄める。地元特有のものだと効果的②阿波尾鶏の販売を始めた時は徳島県特産のすだちを、試食販売の塩焼きに付けたり、購入者にプレゼントするなど繰り返し行ない、地道にファンをつけていった――などの販売テクニックを紹介。
また、今年11月から来年2月まで、高島屋玉川店と東武池袋本館の鳥芳店舗で全国各地の希少な地鶏を紹介する「全国地鶏リレー」の概要を説明し、「日本食鳥協会から『生産規模が小さい地鶏は冷凍流通になってしまうため、期間を決めてフレッシュで販売してもらえないか』という依頼があり、引き受けることにした。品質や生産過程などのこだわりよりも、ストーリー性や背景・歴史、地域性など、お客様にとって新鮮味のある情報を提供できればさらによいのではないか。郷土色を出せる関連商品や料理の提案、試食販売を実施したい。生産者の方々が直接販売し、お客様と対話していただくことも効果的だと思う。希望者は日本食鳥協会に連絡してほしい。全国地鶏リレーを通してお客様と対話し〝ファン〟を作りましょう」と呼びかけた。

【地鶏・銘柄鶏振興緊急対策事業の一環として開いたセミナー】

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