「ウイルスの侵入防止」徹底を! AI疫学調査で中間とりまとめ

農林水産省は8月30日、高病原性鳥インフルエンザ(AI)疫学調査チーム(チーム長―伊藤壽啓鳥取大学農学部獣医学科教授)の「中間取りまとめ」を公表した。昨年11月から今年3月にかけて発生したAIでは、ウイルスの侵入経路は特定できなかったが、渡り鳥が日本に持ち込み、野鳥やネズミなどの野生動物によって鶏舎にウイルスが持ち込まれた可能性を指摘。今秋以降の発生を防止するためには、ウイルスの侵入防止対策を徹底することが重要だと指摘した。

中間とりまとめでは、今秋以降の発生を予防するため、(1)野鳥・野生動物の侵入防止対策(2)ネズミ対策(3)人や車両を介してのウイルス侵入防止対策(4)飲用水・飼料などを介してのウイルス侵入防止対策(5)家きんの健康観察(6)飼養衛生管理の確認と指導(7)情報の収集と共有――などの取り組みが重要だと提言した。
今回、H5N1ウイルスの感染によって発生したAIは、家きんでは9県24農場(島根県1例、宮崎県13例、鹿児島県1例、愛知県2例、大分県1例、和歌山県1例、三重県2例、奈良県1例、千葉県2例)、野鳥(飼養鳥を除く)では、16道府県26地域(28市町村)、15種、60羽。分離されたすべてのウイルスは、平成21年から22年にかけてモンゴルや中央ロシアで野鳥から分離されたものや、今年、韓国やモンゴルで分離されているものと近縁であったが、16年と19年に国内の発生事例から分離されたウイルスとは異なっていた。
わが国へのAIの侵入経路について中間とりまとめでは、海外からの人や物を介して農場に直接ウイルスが持ち込まれた可能性は否定し、渡り鳥を介した可能性を示唆した。
具体的には、(1)昨年10月に北海道稚内市で、カモ類の糞からウイルスが分離されていること、家きんでの初発事例が渡り鳥が多く飛来する湖に面する農場で起こったこと、渡り鳥などの野鳥の感染事例が多いこと――などを考慮すると、「渡り鳥などの野鳥によって日本へウイルスが持ち込まれた」(2)昨年末に韓国で多くの発生が確認され、分離されたウイルスの塩基配列と、わが国で分離されたウイルスのHA遺伝子の塩基配列が100%一致する株があること――ことから、「日本に飛来する渡り鳥などが、途中の大陸や朝鮮半島で、家きんに流行しているウイルスに感染して日本に持ち込んだ」(3)島根県の発生事例から分離されたウイルスは、昨年5月にモンゴルでオオハクチョウから分離されたウイルスと近縁で、同10月に北海道の最北端にある稚内市でカモ類の糞からウイルスが分離されていること――から、「モンゴルなどから運ばれ、北方営巣地付近で維持されたウイルスに感染した渡り鳥が直接日本へ持ち込んだとする考え方もある」など、3ルートから侵入した可能性が高いとした。
また、AIが多発した要因としては、(1)感染した野鳥が国内を移動してウイルスを拡散し、家きんや野鳥での感染が増加した(2)侵入ルートが複数存在したことによる感染事例の増加(3)今年1月中旬から下旬にかけて東アジア地域に寒波が到来したため、例年より多くの野鳥が朝鮮半島や大陸から移動したこと――などを挙げている。
なぜ宮崎県の農場でAIが発生したかについては、(1)家きんの飼養羽数、農家数の高密集地域であったため、発生リスクも高かった(2)宮崎県中央の平野部は、カモ類が比較的多い地域で、確認数も昨年に比べて増加し、特に日本や韓国でAIウイルスの分離事例が多いオシドリの確認数が多かった。カモ類はAIウイルスに感染しても重篤な症状を示さないまま環境中にウイルスを排せつするため、他の鳥類への感染源になった(3)宮崎県内では、野鳥の感染例が7例中で、感染した野鳥を捕食して感染したと推定されるハヤブサも3例確認されているため、県内の広い地域で野鳥がウイルスに感染していたことが示唆され、家きん飼養農場での発生につながった――などの可能性を示唆している。
ただ、宮崎県の2農場については、それぞれ他の発生農場の畜産関係車両の訪問が確認されているため、車両による伝播の可能性が否定できないとしている。
一方、宮崎県以外については、他の発生農場との関連が認められないため、「周辺環境からウイルスが侵入した可能性が高い」とみている。
個別農場ごとにAI発生要因を分析した結果では、(1)現地調査で実際に小型の野鳥の侵入や、防鳥ネットの破損、鶏舎の隙間などが確認された農場もあり、野鳥または野生動物を介したウイルスの侵入があると考えられた(2)ネズミ類についてはほとんどすべての農場で存在が確認されており、ウイルスを持ち込んだ可能性は否定できなかった(3)農場の管理者、従業員と畜産関係者の衣服・長靴などの交換や消毒に不備があった農場が確認されており、これによりウイルスが持ち込まれた可能性も考えられた。また、発生農場間を同一の畜産関係車両が巡回していた例もあり、車両によるウイルスの伝播の可能性も否定できない(4)未消毒の表層水を飲用水に用いていた発生農場もあり、飲用水を介してウイルスが持ち込まれた可能性も否定できない(5)今回の発生例のほとんどは、他の発生農場からの伝播によってウイルスが侵入したのではなく、野外環境のウイルスが直接、農場に侵入したものと考えられた――としている。

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