カプア博士招きAI国際学術セミナー 最新の国際的知見を学ぶ 日本鶏卵生産者協会

(般)日本鶏卵生産者協会(略称・JEPA、梅原宏保会長)は3月3日、東京都千代田区のホテルルポール麹町で、鳥インフルエンザの世界的権威であるイラリア・カプア博士(OIE・FAO鳥インフルエンザ部長、OIE鳥インフルエンザ・ニューカッスル病専門家、イタリア国立ベネチア家畜衛生研究所生物医学部長)を講師に招き、「鳥インフルエンザ国際学術セミナー2011」を開いた。
セミナーは、同協会が政府・国会などに世界基準(グローバルスタンダード)での鳥インフルエンザ(AI)対策を求めている中で、最新の国際的知見を学ぶために開いたもの。会員をはじめ各県の畜産担当者や家畜保健衛生所の担当者約50人を含む約200人が参加した。
主催者を代表してあいさつした梅原宏保会長は「2004年(平成16年)にわが国で79年ぶりにAIが発生して以降、足掛け8年が経過したが、我々生産者は毎年冬になると、いつAIが発生するか恐れおののき、被害を受けた場合は大変な苦しみを味わっており、同じことを毎年繰り返している。生産者団体としては、国に対して根本的な対策を繰り返し要望するとともに、今回来日していただいたカプア博士をはじめ、AI問題に関する世界的権威者から得た情報や教えを糧に、粘り強く国に要望してきた。その結果、移動制限の区域や期間については多少の改善はみられたものの、基本的な問題については、残念ながら一歩も前進しておらず、わが国の対策は極めて前近代的なものと言わざるを得ない。
我々生産者は獣医師ではないが、日本の養鶏産業の現場を一番良く理解し、戦後65年間に近代養鶏を築き上げた経験もある。本日参加された生産者の中で、感染症が消毒と殺処分だけで収まると考えている人はいないと思う。日本の感染症の専門家からも、現在の日本のAI対策は消毒と殺処分のみの前近代的な防疫対策に偏り、ワクチンを含めた予防対策にほとんど触れていないのはおかしいとの声が上がっている。消費者からも、口蹄疫を含めてこれだけ家畜の殺処分が続くと、あまりにもかわいそうで、予防接種などで収まる方法はないのかとの声が上がっている。
いずれにしても、日本の現在のAI対策は世界的な水準からは全く遅れている。カプア博士のお話を聞き、これを基に、日本の生産者がこれ以上AIに苦しむことがないよう、根本的な対策を勝ち取っていかなければならない。
本日は生産者をはじめ、各県の畜産・衛生の担当者にも多数参加していただいた。AIが発生して一番困るのは生産者であるが、一緒になって苦労されるのは県の担当者だと思う。現場から声を上げて間違いを正していかなければ、この問題は永久に解決しない」などと述べた。
秋田善祺政策担当副会長は、今国会に提出される家畜伝染病予防法改正案に盛り込まれた『家畜の予防的殺処分』から、高病原性鳥インフルエンザが対象外となった経緯を説明し、この実現のために尽力した国会議員の先生方に謝意を表するとともに、「現在の日本のAI対策の大部分は間違っている。農林水産省と日本の学者が、大手マスコミを使って世論を操作しており、その実態と真実を皆さんに知ってほしい」などと強く訴えた。
来賓を代表してあいさつした森田高総務大臣政務官(養鶏問題に関する議員連盟事務局次長、国民新党参院議員)は、家伝法改正案に盛り込まれた家畜の予防的殺処分の対象から、高病原性鳥インフルエンザが除外されたことなどを紹介するとともに、「今回の家伝法改正案には、最近の国際的な技術水準や科学的知見に基づいて、農林水産大臣が3年ごとに防疫指針を見直す責任も明記されている。これはこれまで日本の畜産行政を私物化してきた御用学者ではなく、カプア博士や日本の優秀な学者が中心となって、グローバルスタンダードなAI対策をようやく構築できる可能性が示されたことを意味している。
先日、国民新党本部に奥原消費・安全局長と川島動物衛生課長に来ていただき、議連の亀井静香会長に、自らの口でしっかりとやりますと誓っていただいた。今シーズンが終われば、リアルタイムPCRを速やかに全国に導入することもはっきりと確認していただいた。これによって無用な移動制限の区域や期間に関して劇的な改善が図られると確信しているし、日本の官僚の発言として絶対に忘れないため、しっかりと実現を図っていきたい。
ワクチンに関してはカプア博士から詳しい話があると思うが、EUでも米国でもグローバルスタンダードに基づき、緊急ワクチンと予防的ワクチンのガイドラインに沿って様々なワクチンが常備されながら、その時々の状況に応じて使われている。ワクチンはやみくもに使うものではなく、使った後のフォローアップも必要である。定期的なモニタリングとリアルタイムPCRの使い方などがかみ合った、わが国のベストケースが模索できるのではないか」などと述べた。
カプア博士は(1)H5N1の教訓から学んだことと今後の方向性(2)鳥インフルエンザの診断法とサーベイランス(3)DIVAシステムによるワクチン接種――について最新の国際的知見を紹介した。
この中で、リアルタイムPCRについては「検査の精度は非常に高く、半日以内に結果が出るため迅速である。ウイルス量は計測できないが、家畜や畜産物などの移動を制限するためにウイルスを分離・同定する必要はなく、あくまでも陽性か、陰性かが分かればよい。リアルタイムPCRは、多くの国で迅速診断に利用されている」とした。
ワクチン接種については「我々の研究所では、数年前からワクチンのウイルス株と野外のウイルス株を区別するDIVAシステムを確立して使ってきた。これによって野外株に感染した鶏と、ワクチンを接種した鶏を鑑別でき、日本で心配している不顕性感染の鶏を検出できる。日本政府は、おそらく不顕性感染を心配してワクチン接種に反対してきたと思うが、実際には鑑別が可能なため、DIVAシステムを用いたワクチン接種について偏見を持たずに考えるべきだと思う。
ワクチン接種は、バイオセキュリティの成果を最大化するツールの1つである。ワクチン接種した鶏は、人や牛、豚と同じように野外感染への抵抗性を高めることができる。非常に重要なことは、バイオセキュリティとワクチン接種を組み合わせることである」などと述べた。
質疑応答で「日本ではAIワクチンを接種すると汚染国の扱いになると理解されているが、国際的な基準はどうなっているのか」との問いには、「OIE(国際獣疫事務局)はDIVAシステムを用いてワクチンを接種し、さらに検査によって野外感染が陰性だと確認されていれば、清浄国として扱っている」と答えた。

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