新型コロナで外食・業務筋に大打撃 〝目に見える〟出口と経済対策を

中国・武漢から始まった新型コロナウイルスの感染は全世界に広がり、世界保健機関(WHO)は3月11日、国を超えた感染状況などから「パンデミック(感染症の世界的な大流行)とみなすことができる」と表明した。休校やイベントの中止、訪日外国人客減少の影響、不透明感が増している今後の需要、さらに現在の懸念について、業界関係者に取材した。

 

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染抑制策として、大規模なスポーツや文化イベントの中止要請、小、中、高校などの全国一斉休校、一部の国々からの入国制限強化などが打ち出されているが、これらの政策に伴う経済、とりわけ外食・観光産業とその流通網への影響が深刻化している。

小売店需要は一時的に増加

消費は外食から、内食や通販へと極端に集中。学校給食もほぼ全滅となった。

鶏卵も政府の2月27日の休校要請直後から3月1日の日曜日まで、ドラッグストアや小型店を中心に販売量が倍増。平均でも3割程度増加し、3日の相場が上昇した。鶏肉も巣ごもり需要の集中で量販店向け販売が急増したが、供給は潤沢で、相場水準が一段上がるような勢いはみられない。

3月7、8日の週末以降は、ドラッグストア以外は鶏卵、鶏肉ともに落ち着いてきており、販売関係者の間では「産地在庫が家庭内在庫にシフトした」「一時的な需要の先食いだった」との見方が強まっている。鶏卵加工筋の売れ行きも良くなく、相場水準から積極的な買いもないという。

一方、テーマパークの休業や、宴会などの自粛、訪日外国人の激減の影響は大きく、居酒屋など飲食店向けは平均して3割減、ホテルや観光関連施設、空港など向けは5~9割減などの声が聞かれ、「普段にぎやかな場所の店舗ほど厳しい」状況。

政府のイベント自粛や休校などの要請とそのタイミング、影響などについて鶏卵・鶏肉関係者からは「対策は発生初期に必要だったが、もう遅すぎで意味がない。経済はぐちゃぐちゃになる」「対策は仕方なく、これでも最低限と思う。ただ、右へならえで、必要ないところまで自粛している所はある」「外食やホテルはお客が来ないと仕入れられず、影響は川上全部に及ぶ」「震災時よりひどい、ここまでかと思う」「実体経済はずっと悪かったので、この追い打ちは大打撃になる」「多くの問屋や飲食店が大変な状況にある」「マネキン販売会社など収入がない所が出ている」「(飲食店などの)パートタイマーらが生活できなくなっていると聞く」「新型コロナウイルスの被害より、社会や経済への被害のほうがはるかに大きくなっている」「多くの企業が決算月を迎える3月にこの状況は危ない」「4月以降はつぶれるところが出てくるだろう」などの怒りのこもった声が上がっている。

花見・行楽シーズンを控え、宴会を控えるよう呼びかける自治体が出てきており、「花見シーズンの消費も大幅に減る」のが必至の情勢。

幅広い業種に損害

東京商工リサーチが発表した第2回「新型コロナウイルスに関するアンケート調査」では、飲食店の91.7%、宿泊業の96.5%、飲食料品卸売業の73.2%、同小売業の72.8%、農林漁鉱業の41.0%が企業活動に「すでに影響が出ている」と回答。2月の売り上げは、企業全体の67.6%が「前年同月を下回った」とし、今後の懸念については75.4%が「感染拡大」、36.0%が「東京オリンピック・パラリンピックの中止」と答え、「不安はとくにない」と答えた企業は2%にとどまった。

幅広い業種で損害が出ていることから、政府は企業への無利子融資などを打ち出し、4月には緊急経済対策をまとめるとしているが、学校給食や飲食店向けの売り上げが急減した関係企業からは「損失は戻ってこない」「無利子融資でも借金は残り、景気動向によってはいつ返せるか分からない」など冷ややか。経済対策について「各企業が利益を取り戻せるような支援策や助成・補助、経済振興策を」「経済回復のため給料がなくなった人全員の補償くらい打ち出してほしい」など、目に見える対策を求めているようだ。

先行きの見通しが立つ対策を求める

特に、この状況がいつまで続くのか、終わりが見えないことが不安や危機感を増幅させている。先行きについても「この状況では学校も当面再開できないだろう」「政府はオリンピックを開くために国際情勢をみながら、様々な対応を余儀なくされてきたと思うが、もう開けないのではないか」「無理しないで1~2年延期したらいい」「来月の末ぐらいには、もうこんな自粛を続けていても仕方ないという雰囲気になっているのでは」「春には自粛ムードが反転して、行楽需要などが急増する可能性もある」など見方はさまざま。

政府やマスメディアに対する厳しい指摘も多く「今日は何人感染したと大々的に報道しているが、新型コロナウイルスの感染者だけでなく、治った人の数や、インフルエンザと肺炎にかかった人の数も並行して報道してほしい(編集部注…厚労省による3月17日昼までのクルーズ船を除く国内の新型コロナウイルスPCR検査数は1万6484人、検査陽性者数は824人、入院者数は621人〈無症状者92人と入院予定含む〉、死者数は28人、退院者数は171人〈軽症で治る人が8割〉。季節性インフルエンザ推計患者数は3月1日までの1週間のみで16万1000人、入院者数は1918人。1月第1週からの累計推計患者数は397万人〈前年比61%減〉。2018年1年間の死者数は3325人。同年の肺炎の死者数は約9万5000人)」、社会の対応として「普通のかぜと一緒で、新型コロナウイルスはなくならないので、どこかで(自粛をやめるなど)踏ん切りをつけるしかない」との声も聞かれた。

新型コロナウイルス対策の出口戦略が明らかにされていない中で、経済活動や人の往来の停滞が長期化すれば「生活苦から犯罪も増えるのでは」との指摘も聞かれるほか、飲食店や観光業を中心に事業に見切りをつける人や、関連産業の倒産が急増するなど、産業構造が大きく変化する契機になる可能性も挙げられるようになっている。経済活動を抑える対策をどこまで続ければ、展望が開けるのかの見通しが求められている。

事業所閉鎖に関する行政の対応
従業員の感染が判明した場合の食品関連事業所の対応が現在最も懸念されているが、農水省は3月13日公表のガイドラインで「一般的な衛生管理が実施されていれば、感染者が発生した施設等は操業停止や食品廃棄などの対応をとる必要はありません」と明記。さらに同省は、契約文書に基づかない下請け企業への一方的な取引停止や全ロット返品、返金要求などについても、現状の科学的知見から一般的な衛生管理で食品由来の感染を心配する必要はないことなどを基に「取引先に不当な取引条件を課さないこと」を求めている。

行政による閉鎖指導や命令への懸念についても、現在の科学的知見では、感染は飛沫と接触のみで起きるため、厚労省の担当者は仮に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の下で施設の使用制限などを指示できるとする緊急事態宣言が出されたとしても、不特定多数の密閉・密集空間ではない食品関連施設や事業所のような施設については「対応は変わらず、事業所全体を閉鎖するような指導は、新たな知見が出ない限りしない」としている。

ただ同省によると「大きなクラスター(患者の集団)が発見された場合は、調査のために一時的にクローズしてほしい」と言う可能性はあり、スポーツジムなどが閉鎖された事例が出ている。さらに不特定多数の密集空間、特に病院などで新型コロナウイルスが発生した場合は施設全体を「クローズすることはある」としている。

前述の畜産事業者向けガイドラインでは、農家間や生産者団体、関連業者との業務分担や、地方自治体への指導要請、さらに家族経営の農家などを想定して「家庭内で感染者の世話をする者は、できるだけ限られた方に限定してください」といった文言も掲載しているが、農畜産業や食品生産・流通業界では、小規模事業者の多さや、もともとの人手不足の深刻さなどから、感染者と濃厚接触者数人が自宅待機を指導されただけで、事業所全体の操業停止を求められているのと等しい状況になる場合が多いと懸念される。食の安定供給維持のためにも、行政には現場の実情をふまえた施策の運用と、困っているところが的確に把握されてヘルプの手が十分に届くような、産官学が連携したBCP(事業継続計画)の構築や支援が求められる。