飼料用米でシンポジウム 飼料用米多収日本一の表彰式も
(一社)日本飼料用米振興協会(海老澤惠子理事長―東京都中野区)は
月17日、東京都文京区の東京大学弥生講堂・一条ホールで「飼料用米普及のためのシンポジウム2017」を開いた。
第1部では、日本飼料用米振興協会の海老澤理事長、日本生活協同組合連合会総合運営本部政策企画部の小熊武彦部長があいさつ。
「飼料用米における生産コスト低減技術の研究」について報告した東京農業大学農学部の有澤岳助教は、飼料用米品種の立毛乾燥を行なう上での注意点として①脱粒性に関係なく利用可能だが、収穫期が遅い品種は立毛乾燥も長期化する②倒伏を防止するため、水分低下後に速やかに収穫する必要がある③規模の拡大で鳥による食害の影響を小さくする――などを挙げた。
太陽工業㈱物流システムカンパニーマーケティング室の西村哲室長は「飼料用米の保管手段の低コスト化研究報告」と題し、長期繰り返し使用が可能で、耐久性や防水性に富む〝ランニングコンテナ〟を使い、東京農業大学(もみ米)、三重県農業研究所(玄米)と共同で実証実験した飼料用米の屋外保管について①水漏れや結露によるカビの発生はなかった②害虫の発生やネズミによる被害もなかった――と報告した。
休憩時間には、飼料用米を給与して生産した豚肉、鶏卵、鶏肉の試食なども行なった。
第2部では、農林水産省政策統括官穀物課の川合豊彦課長が「水田のフル活用」について講演し、「水田フル活用はブレずに実施する。先日の国会で大臣も力強く『平成30年産以降も安定的に実施します』と答弁している」などと述べた。
「飼料用米の利用推進」について講演した同省生産局畜産部飼料課の富田育稔課長は「飼料用米は現在、約142万トンが畜産農家や配合飼料メーカーで使われており、将来的には450万トンくらいまで使うことができると見込んでいる」と述べ、畜種別の利用形態や取り組み事例、利用拡大のための機械・施設整備などに対する支援策などを紹介した。
第3部では、㈱秋川牧園の秋川実会長が「飼料用米の生産から畜産への給与、製品の出荷作業」と題し、2009年から開始した飼料用米専用品種への取り組みについて特別講演した。
秋川会長は「飼料用米は、米国や南米などから輸入されるトウモロコシと競争関係にあるが、残念ながら同じコストで生産できるわけではない。ただ、飼料の年間消費量は1600万トンで、米は年間700万トンの生産でも余る見込みの中で、飼料用米の生産は農地を保全して農業を守る、地方を守ることにつながると思う。
私は国も決断したと思うが、貴重な税金が使われることには違いないため、できるだけコストを下げる必要がある。コスト低減に取り組む時には極めてシンプルな目標を掲げる。それは収穫量を増やすことで、それができてから様々なコストを考えるほうが盛り上がると思っている」と述べ、多収穫に向けた①倒伏性に強い飼料用米専用品種(モミロマン)の採用②生産者が圃場視察会に参加し、多収穫を称えて切磋琢磨③畜糞堆肥による地力の増進と肥料コストの低減、地域循環――への取り組みを紹介。飼料用米専用品種の課題としては、晩熟性とウンカ耐虫性などを挙げた。
このほか、もみ米で保管することでもみ摺りコストの低減、国の補助事業を活用して飼料用米保管タンク(組み立て式の亜鉛引き鉄板サイロ)を昨年秋に竣工したことで保管コストの低減、飼料配達の帰り便を活用して飼料用米を飼料工場に搬送することで輸送費の低減に取り組んでいることなども紹介した。
㈱パル・ミートの江川淳取締役商品本部長は「生協における飼料用米利用畜産物の供給活動」と題し、パルシステムの産直畜産物の『日本のこめ豚』『までっこ鶏』などへの取り組み。熊本県農業研究センター畜産研究所飼料研究室の鶴田勉室長は「飼料用米を利用したSGS生産と活用事例」と題し、もみ米サイレージの調製などへの取り組みを報告した。
昭和産業㈱畜産飼料部の多田井友揮氏は「飼料メーカーから見た飼料用米普及のための課題」として、数量拡大に向けたインフラ整備、使用までにかかるコスト低減、飼料用米を使用している畜産物のさらなる普及・拡大を挙げ、「飼料工場は港湾に多く立地しているため、飼料用米を受け入れる港湾倉庫は不足している。飼料工場で多量の飼料用米を受け入れるには、紙袋からフレコンへの詰め替えが必須で、収穫から一定期間は産地で保管し、飼料工場にはバラ持ち込みで、時期を分散させることが理想。そのためには飼料用米のカントリーエレベータの検討も必要である。
農産物検査を行なう場所と検査員が不足しているため、検査員の増員と検査方法の効率化が実現しないと、かえって数量拡大の障壁となり得る。
飼料メーカーとして、輸入トウモロコシよりも低コストで使用するには飼料用米の物流経費の圧縮が必須である。
飼料用米を使用している畜産物の普及・拡大では、自給率向上や水田保全など飼料用米を使用する意義や畜産物の特徴を発信していく必要がある」などと指摘した。
東京農業大学農学部畜産学科の信岡誠治教授の司会で質疑応答を行ない、加藤好一副理事長(生活クラブ事業連合生活協同組合連合会会長)の閉会あいさつでシンポジウムを終えた。
飼料用米多収日本一の表彰式
日本飼料用米振興協会と農林水産省の共催で平成28年度に初めて実施された「飼料用米多収日本一」の表彰式が、同シンポジウム内で開かれた。
主催者を代表してあいさつした日本飼料用米振興協会の海老澤理事長は「輸入飼料に頼らずに国産の米で日本の畜産をまかなえるようにするには、まだまだ耕・畜・消の全体の理解と協力として連携が必要である。本日受賞された生産者の皆さんの取り組みが、これからの飼料用米生産の模範・目標・励みとなり、さらに生産が増えることと、私たち消費者も含めて日本全体が飼料用米の重要性について知り、広めることができれば、とても意義あることだと思う」などと述べた。
礒崎陽輔農林水産副大臣は「今回の大臣賞の単収は932キログラムであったが、昭和中期に米作日本一というコンテストを実施していた時の単収は1トンを超えていた。単収1トンはいけると思うので、全国の皆さんにがんばってほしい」と激励した。
農林水産大臣賞、政策統括官賞、全国農業協同組合中央会会長賞、全国農業協同組合連合会会長賞、(協)日本飼料工業会会長賞、日本農業新聞賞の受賞者(3月15日号既報)に表彰状と記念品が贈られ、「単位収量の部」「地域の平均単収からの増収の部」の両部門で農林水産大臣賞を受賞した㈲平柳カントリー農産(宮城県加美町)の我孫子弘美社長が謝辞を述べた。
【飼料用米多収日本一の受賞者の皆さん】