米国のAI拡大止まる 七面鳥の疫学調査を報告
「過去最大の家畜疾病緊急事態」(ジョン・クリフォード米国農務省主席獣医務官)となった米国の高病原性鳥インフルエンザ(AI)は、アイオワ州ライト郡の採卵鶏農場(100万羽)で発生があった6月17日以降、新たな発生が報告されていない。専門家らは、気温の上昇とともにウイルスの活動が低下してきたとみており、農務省などは発生原因の究明へと動き始めている。
米国で昨年12月19日から今年6月17日までに発生したH5N2亜型などのAIは合計223件・4809万1293羽。うち七面鳥は153件・775万9520羽、採卵用種鶏は1件・1万8800羽、採卵用ひなは14件・587万3700羽、採卵鶏は33件・3424万5200羽(全米の採卵鶏飼養羽数の約12%に相当)。このほか裏庭養鶏などの小規模農家でも発生している。
米国農務省動植物検疫局(USDA―APHIS)は発生原因の究明作業を本格化し、6月15日には、同5日までのAI発生状況に基づく疫学調査報告書を公表。アメリカ家禽鶏卵輸出協会が6月16~18日にサウスカロライナ州で開いた年次総会では、クリフォード氏がAIの発生状況や見通しなどをテーマに特別講演した。
米国農務省と国際家禽協議会(IPC)などは6月22~24日、メリーランド州で「AIと家禽貿易に関する国際会議」を共催し、世界的なAI研究者として知られる同省農業研究局(ARS)国立家禽研究センターのデビッド・スウェイン所長が基調講演した。
同省の疫学調査報告書は、AIの農場侵入経路や感染拡大ルートについて、81軒の七面鳥農場への調査などを通じて考察したもの。一つの感染源の特定には至っていないが、米国への侵入については野鳥の関与を重視し、農場への侵入については野鳥や空気を介した可能性に言及している。
さらに七面鳥農場などの間で機器の共有や人の移動、車両の清掃消毒の欠如、ネズミや野鳥の舎内への侵入があることから、これらを介した農場間の伝播があったとみている。調査は継続中で、同局は「分析の進展に伴い、報告書は今後も定期的に更新する」としている。
高騰していた米国の卵価(週当たりラージ平均)は、6月第2週の246・4㌦をピークに下げに転じ、7月第1週は㌦となったが、鶏卵不足は続き、6月下旬現在はレストラン業界で卵を使ったメニューの値上げや削減の動きが広がっているほか、7月第1週の液卵価格も6月第2週より5%程度上昇している。生産者から慈善団体などへの卵の寄付も例年通り実施できなくなっているとのこと。感謝祭(月日)に向けて七面鳥価格が高騰する懸念も出ている。
産業への影響も甚大となり、中西部の農場や処理場では多数の従業員が職場を失っている。週間は失業手当が支給されるが、諸々の経済損失を合わせると、6件のAIが発生したライト郡だけで100万㌦(約1億2400万円)に上るという。マイケルフーズはネブラスカ州の農場の再検査で陰性が判明し隔離措置を解かれたものの、100人以上のレイオフに追い込まれ、親会社のポストホールディングスは今年度のEBITDA(利払い・税金・償却前利益)が2000万㌦(約億8000万円)減るとの予想を公表した。
膨大な死鶏の処理も難航しており、アイオワ州の埋却処分場が受け入れを停止したため、死鳥や防疫処理廃棄物が入ったコンテナ426台(1台7~8㌧入り)が立ち往生したと報じられている。ペンシルベニア州は6月日に、AI発生州から生鳥市場向けの家禽や割卵用の卵を運び込む際は独自に時間の検疫を行なうと発表した。
復旧までの期間については、日本の関係者の間でも2年はかかるとみられているが、AP通信の取材に対し米国政府関係者は「2年以内」、AEB(アメリカン・エッグ・ボード)関係者は「最善のシナリオで1年」と語ったとのこと。
AIは、気温が再び下がり渡り鳥が移動を始める秋以降に、再び活発化するとみられ、中西部の家禽農場は作業前の着替えの徹底や車両消毒設備の導入などを進めている。
アジア由来の遺伝子を持つH5N2亜型ウイルスが、再び大陸を渡る可能性も指摘され、特にウイルスを運んでいる水鳥など北米の渡り鳥が、今夏にアラスカなど北の営巣地でユーラシア系統の渡り鳥と交流し、秋以降に日本などアジアへウイルスを持ち込むシナリオが強く懸念されており、わが国でも例年にも増して厳重な警戒が必要となっている。