台風15号、養鶏関係に被害 当面の鶏卵需給に影響

年末には需給が緩む可能性も

降りしきる雨の中、懸命に作業するボランティアの皆さん(16日、千葉県鋸南町保田で)

今年8月の九州や中四国での大雨は、各地域の農林水産業に被害をもたらし、養鶏関係でも、一部で鶏舎の浸水被害などが発生した。

9月に入ると、中心付近の最大風速が40メートルの強い台風15号が関東地方を襲い、9日午前5時ごろ千葉市付近に上陸。千葉と茨城両県を縦断して関東の東の海上に抜けた。この間、台風が接近した静岡(伊豆地方)、神奈川、東京、千葉、茨城などの各都県に暴風雨をもたらし、最大瞬間風速は千葉で57.5メートル、横浜で41.8メートルなどを観測。多くの住宅で被害が出たほか、農業や漁業、流通網に甚大な被害を引き起こした。

特に、今回の台風被害で大きな問題になったのは電力。経済産業省の調べでは、一時は最大約93万戸が停電。千葉県内では、南部の君津市の送電線鉄塔2基が倒壊したのに加え、強風で多数の電柱が倒れ、倒木などの影響もあり復旧が遅れた。18日午後10時現在でも、約3万7600戸で停電が続き、おおむねの復旧は27日ごろにずれ込む見通し。

強い台風15号は9月9日午前5時ごろ、千葉市付近に上陸し、北東に進んだ(画像は気象庁ホームページより)

停電のため、猛暑の中で被災者は、テレビのニュースも見られず、エアコン、扇風機、冷蔵庫も使えなくなった。浄水場の電源が動かず、断水が長引く市町村も続出した。さらに停電による銀行ATMの営業停止や、固定電話の不通、通信電波を飛ばす基地局の機能停止、個人端末の電池切れなどによる通信障害も広がった。

鉄道は一部区間で運休や遅延が続き、道路も信号機の故障や倒木などによる一部通行止めで大渋滞が発生。ガソリンをはじめとした燃料不足も起きた。断水によって風呂・トイレが使えず、停電や浸水でスーパー、コンビニが営業停止したため、被災地の人々の日常生活に大きな影響を与えた。

台風は千葉のレイヤー・ブロイラーの〝養鶏地帯〟である南部と東部を通過したため、猛烈な風による鶏舎の全壊や、一部損壊、豪雨による浸水被害も聞かれ、大きな被害を受けたところもあるようだ。

暴風で鶏舎が全壊した小規模(1万羽以下)の採卵養鶏場の写真が9月15日付の読売新聞に掲載されたほか、原因は不明だが、約6万羽の採卵養鶏場での火災もあった。

停電の影響は、養鶏関係の被害を大きくしたようだ。ほとんどの養鶏場では非常用発電機が稼働したものの、一部の養鶏場ではファンが停止し、数万羽の熱死被害が出たケースも。発電機が動いた養鶏場も、鶏を生かすための電力供給(主に換気と給水)が精一杯で、集卵ベルトやGPマシンなどの出荷施設を動かせない養鶏場が多かった。

これは、インフラの発達した日本で長期的な停電は起きないだろうと、比較的小型の発電機を用意し、想定を超えた際には大型発電機をレンタルしようと考えていた事業所も多かったためとの見方もある。急きょ大型を借りようとしたところ、店舗には注文が殺到していて「全然借りられない」状況となった。

さらに倒木によって大型車両が農場に入れず、飼料の供給や、卵と鶏の運び出しが不可能となったところもある。被災農場では「なんとか鶏と卵を…」と、人力で非常事態を懸命に乗り切ろうとしたが、手集卵に慣れていない鶏が暴れてしまうなどのダメージを受けている。

鶏卵生産者は「この環境下で3日間も水が切れると、卵の卵重確保どころか、1か月はまともに産卵できないのでは」と影響を心配している。鶏舎や内部施設の修繕についても、建設業界は人手不足のため、復旧には時間がかかる見込みで、「様々な面で影響は長引く」との声も。

また昨今は、流通・外食業界の衛生要求水準が厳しくなっており、一時的に鶏舎に滞留した多くの卵がテーブルエッグとして出荷できないなどの損害が出ている。

停電と断水で休業せざるを得ないスーパーやコンビニ、外食店もあり、「卵の行き場所がなくなった」(千葉県内の鶏卵卸)一方、台風の影響で納入養鶏場からの卵が減少したり、止まったスーパーなどでは、代わりの納入先を探すなど、流通も混乱している。

これまでは供給過多が懸念されていた関東の鶏卵需給は、9月9日以降ひっ迫。東京の相場は10日と12日に各サイズ10円ずつ値上がりし、18日にはM~SSが15円、LとLLが10円上昇。生産調整や暑熱の影響などで比較的タイトになっていた西日本の需給にも影響し、大阪の相場は11日、13日、18日に各10円ずつ値上げした。9月13日には『鶏卵生産者経営安定対策事業』の標準取引価格が補てん基準価格(185円)を上回り、18日には202円となり、9月の補てんがどうなるか注目されている。

成鶏めす飼養羽数全国1位の茨城(今年2月11日時点で1239万羽)と、2位の千葉(988万羽)両県の台風15号による採卵養鶏業界の詳細な被害実態はまだ明らかになっていない。ただ、両県で全国の15.7%に当たる約2227万羽を占めているだけに、直接の死亡羽数は多くないとしても、早期とう汰や自然換羽を余儀なくされたケースなどもあるようで、当面の需給への影響は大きいと見る向きが多い。その一方、卵価の上昇はあっても、全国合計の稼働羽数は昨年を上回っているとみられるため、年末に向けて生産量が回復してくれば、需給が再び緩んでくる可能性も依然、懸念されている。