卵は「生後5~6か月から」 『授乳・離乳の支援ガイド』改定
摂取遅いと「アレルギーの発症頻度上がる」などの知見反映
保健医療従事者らが参照する『授乳・離乳の支援ガイド』がこのほど改定され、乳児に初めて卵を与えるべき月齢が、7~8か月頃から5~6か月頃に早まった。食物アレルギーに関する最新の研究成果に基づいたもの。卵についての誤解が、また一つ科学的な研究によって解かれ、公的なガイドラインに反映された。
厚生労働省は3月8日、東京都港区のTKP新橋カンファレンスセンターで「第3回『授乳・離乳の支援ガイド』改定に関する研究会」(座長=五十嵐隆国立成育医療研究センター理事長、構成員12人)を開き、昨年11月から協議してきた2019年改定版の案を、座長一任とすることで了承。3月29日に『授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)』として公表した。
同ガイドは、保健医療の従事者や、育児本や雑誌などの製作関係者らが参考にしているもの。科学的知見の集積や社会環境の変化に合わせて、おおむね10年ごとに見直され、前回は2007年、前々回は1995年に改定された。
今回の改定内容のうち、本紙関係では特に食物アレルギーに関する内容が注目され、離乳期の食事について07年版では「~前略~慣れてきたらじゃがいもや野菜、果物、さらに慣れたら豆腐や白身魚など、種類を増やしていく」と記述されていたものが、今回の19年版では「~同~慣れてきたらじゃがいもや人参等の野菜、果物、さらに慣れたら豆腐や白身魚、固ゆでした卵黄など、種類を増やしていく」と、卵黄も離乳開始時期に与えられる食品の一例に加えられている。
食物アレルギーの予防については、最新の科学的研究成果では発症リスクに影響する因子として「遺伝的素因」「皮膚バリア機能の低下」「秋冬生まれ」に加えて「特定の食物の摂取開始時期の遅れ」が指摘されているとし、「乳児から幼児早期の主要原因食物は、鶏卵、牛乳、小麦の割合が高く、そのほとんどが小学校入学前までに治ることが多い」「食物アレルギーの発症を心配して、離乳の開始や特定の食物の摂取開始を遅らせても、食物アレルギーの予防効果があるという科学的根拠はないことから、生後5~6か月頃から離乳を始めるように情報提供を行なう」「子どもに湿疹がある場合や既に食物アレルギーの診断がされている場合、または離乳開始後に発症した場合は、基本的には原因食物以外の摂取を遅らせる必要はないが、自己判断で対応することで状態が悪化する可能性も想定されるため、必ず医師の指示に基づいて行なう」などと記述。
添付の表でも、離乳初期(生後5~6か月頃)に、「つぶしがゆ」などに慣れてきたら試してみる食品の例に「卵黄等」を挙げ、離乳中期(生後7~8か月頃)は1回当たり「卵黄1~全卵1/3」、離乳後期(生後9~11か月頃)は「全卵1/2」、離乳完了期(生後12~18か月頃)は「全卵1/2~2/3」を目安としている。
事務局の厚労省の担当者によると、95年版では、離乳初期(生後5~6か月)に「卵黄2/3以下」を与えるよう示していた。ただ、07年版では実態として食物アレルギーを心配する両親が、卵を与える時期を遅らせる傾向があったことから、7~8か月頃に遅くなり、今回は科学的研究成果を踏まえて、いわば12年前の内容に逆戻りした状態となっている。
科学的な研究成果が卵の摂取勧奨変える
食物アレルギーの最新研究については、国立成育医療研究センターアレルギーセンター(現在は東京都立小児総合医療センターに在籍)の成田雅美氏が、同研究会で説明。
昨年12月の研究会では卵について「お母様が卵や牛乳を除去することによって、子供がアレルギーにならないようにする、食物アレルギーだけではなくて、アトピー性皮膚炎などを予防するためにそのようなことをしたほうがいいということをおっしゃる先生方も今から10年前は多かったが、湿疹やぜんそくのようなアレルギー疾患を予防するために、妊娠中や授乳中のお母様が特定の食品を避けたほうがいいというエビデンスがなく、このようなことはしないほうがいい。むしろバランスよく食べていただくほうがいいことは、周知の事実になっている」と指摘し、さらに「最新の知見では、遅らせるとかえってよくない、アレルギーの発症頻度が上がることが分かってきた」と述べ、その根拠として同センターの『PETIT study』などの研究成果を解説。
PETIT studyでは、アトピー性皮膚炎と診断されたハイリスクの幼児をランダムに2群に分け、皮膚炎をしっかり治したうえで1群にのみ加熱全卵粉末を生後半年から50mg(ゆで卵0.2g分)、生後9か月から1歳まで250mg(同1.1g分)を毎日与えたところ、卵アレルギーの発症率は8%となり、卵を完全に除去した群の発症率38%より有意に(8割程度)発症を抑制できたこと、これらの研究から、日本小児アレルギー学会は生後6か月から医師の管理下での卵の微量摂取を勧めることを骨子とした「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」を出したこと(本紙2017年6月25日号既報)などを紹介した。
また、昨年12月の研究会では、ベネッセコーポレーション発行の育児雑誌「ひよこクラブ」の仲村教子編集長も、「ひよこクラブ」では同提言の発表を受けて、生後5~6か月から固ゆでした卵黄を「少量」与えるよう掲載していることを紹介。ただ、育児雑誌の多くは現行の授乳・離乳ガイドに準拠することから、ガイドの表示内容自体が卵黄を「生後5~6か月から」与えるように変わらないと、掲載内容を変えにくい実情を説明していた。
今回の『授乳・離乳の支援ガイドライン』改定版には、これらの知見や意見が反映されている。