アレルギー低減卵を開発 広島大学とキユーピー アレルギー原因物質「オボムコイド」を除去

世界で初めて安全性を確認

広島大学とキユーピー㈱の共同研究チームは4月26日、独自のゲノム編集技術を用いてアレルギー原因物質「オボムコイド」を除去した鶏卵を開発し、世界で初めて安全性を確認したと発表した。

広島大学とキユーピーは2013年からアレルギー低減卵の基礎研究に取り組み、2020年には鶏卵に含まれるアレルギー原因物質のうち、加熱加工しても除去できない卵白中のたんぱく質「オボムコイド」を含まない鶏卵の作出にラボレベルで成功した。2022年4月からは(国研)科学技術振興機構による産学連携プログラム「共創の場形成支援プロジェクト(COI-NEXT)」の「共創分野(本格型)」に採択され、10年間のプロジェクトが始まっている。

今回の研究では、広島大学が独自に開発したゲノム編集技術『Platinum TALEN(pTALEN)』を用いて、オボムコイド遺伝子の働きを止めた横斑プリマスロック種とロードアイランドレッド種の2系統の鶏を作出し、それらの鶏が生産する卵の中にオボムコイドがないことと、ゲノム編集により予想される変異たんぱく質の生産がないことを確認した。さらにゲノム編集食品で懸念される鶏への別の遺伝子の挿入や、他の遺伝子への影響が全くなかったことも確認した。

これらの結果は、オボムコイドを含まない鶏卵の食品としての安全性を示すとともに、この鶏卵が食品加工や発育鶏卵由来のワクチン製造過程で起こるアレルギー問題の解決に貢献できることを示した。研究成果は、3月12日にElsevier社が発行する専門誌「Food and Chemical Toxicology」に電子版として公開されたほか、2023年5月号に掲載される予定。

4月26日に東京都内で開いた記者説明会には、広島大学大学院統合生命科学研究科の江﨑僚特任助教と堀内浩幸教授、キユーピー研究開発本部技術ソリューション研究所機能素材研究部の児玉大介チームリーダーが出席した。

研究成果を説明した江﨑特任助教は「オボムコイドを含まない鶏卵があれば、アレルギー原因物質のない加工食品ができる。通常の鶏と、ゲノム編集した鶏のゲノムに大きな差はなく、個体差の範疇であった。オボムコイドを含まない鶏卵を食品として利用するために、オボムコイドがないことによる他の鶏卵成分への影響や、安全に利用できる加工方法について研究するほか、加工食品としての物性や官能評価、臨床試験を含む安全性評価を実施することが次のステップとなる」などと述べた。

オボムコイドを含まない鶏卵の市場規模に関する質問に対し、キユーピーの児玉チームリーダーは「市場規模については不透明な部分が多い。キユーピーが毎年調査している『たまご白書』で卵に関する困りごとについてアンケートを実施すると、アレルギーの発症と回答する人が3~4%いる。卵アレルギーの子どもがいる家庭では、家族全員が卵を食べなくなることが見込まれるため、当初は市場の1%くらいを想定していたが、実際はそれより少し大きそうだと考えている」と答えた。

オボムコイドを含まない卵を産む鶏の育種改良に関する質問に対し、堀内教授は「卵の需要が高まってくるのであれば、飼料効率や産卵性、抗病性などを考慮した育種改良が必要になってくる。現時点では共同研究者には入っていないが、『岡崎おうはん』を開発した家畜改良センター岡崎牧場からアドバイスをいただきながら、需要と供給に見合った育種改良を実施していきたい」と説明した。

今後は広島大学、キユーピーをはじめ、国立病院機構相模原病院、㈱坪井種鶏孵化場、東京農業大学、プラチナバイオ㈱、キユーピータマゴ㈱を中心に、研究を担う仲間を増やしながらアレルギー低減卵の実用化に向けて研究を進めていくとしている。