「鶏卵生産者経営安定対策事業」来年度から内容変更も 農水省

農林水産省の一般会計予算で実施している「鶏卵生産者経営安定対策事業」(事業実施主体は(一社)日本養鶏協会)の内容が、来年度からどのように変更されるか注目されている。

2011(平成23)年度から始まった同事業は鶏卵価格が低落した場合に、価格差補てんを行なって収入を補う『鶏卵価格差補てん事業』と、成鶏の更新に当たって長期の空舎期間を設けることで需給改善を推進する『成鶏更新・空舎延長事業』の2本立てで、鶏卵生産者の経営と鶏卵価格の安定を図ることを目的にしている。

『鶏卵価格差補てん事業』は、生産者の積立金が4分の3、国の補助金が4分の1の割合の財源を基に、鶏卵の標準取引価格(月ごと)が補てん基準価格を下回った場合、その差額(補てん基準価格と安定基準価格の差額を上限とする)の9割を補てんする。ただし、現3か年契約では標準取引価格が安定基準価格を下回り『成鶏更新・空舎延長事業』が発動した場合、発動期間中は10万羽以上規模層に補てん金を支払わない。

『成鶏更新・空舎延長事業』は、生産者拠出の協力金が4分の1、国の補助金が4分の3の割合の財源を基に、鶏卵の標準取引価格(日ごと)が安定基準価格を下回る日の30日前から、安定基準価格を上回る前日までに更新のために成鶏を出荷し、その後60日以上の空舎期間を設ける場合に、奨励金(1羽210円以内。ただし10万羽未満の小規模生産者は1羽270円以内)を交付する。

各事業は3か年の基本契約に基づいて運営しているが、問題の1つは、国の予算(補助)が単年度ごとのため、事業の発動が少なくて予算が余ると国庫に返還する必要があり、卵価低迷が続いて予算を使い切ると事業が打ち切りとなること。

生産者団体では、2010(平成22)年度までの卵価基金制度(現在の鶏卵価格差補てん事業とほぼ同じ仕組み)の場合は、基本契約は同じ3か年で、国の予算は年間約12億円と少なかったが、予算が余れば次年度に繰り越せる仕組みで国の財源の厚みを強化できたとし、単年度予算ではなく、繰り越しできる基金の仕組みに戻してほしいと要望しているようだ。

もう1つは『成鶏更新・空舎延長事業』の発動時に、『鶏卵価格差補てん事業』の補てん金が10万羽以上規模層に支払われないことに対する不公平感の問題。

制度発足当初は、生産者の積立金は個別管理されていたため、3か年契約の終了後に積立金が余った場合は、加入者にすべて返還していた。ただ、生産者の積立金と協力金の両方を個別管理すると、生産者の経費を損金算入することが難しいと財務省から指摘を受け、『成鶏更新・空舎延長事業』の発動時に10万羽以上規模層に補てんされなかった財源はプール管理して事業に使うようにしているが、『成鶏更新・空舎延長事業』の発動期間が長くなるほど、10万羽以上規模層に戻る資金が少なくなる可能性が高く、不公平感があった。

農林水産省では『鶏卵価格差補てん事業』で10万羽であれ、40万羽であれ、線引きがあると不公平感が残るため、線引きをやめ、代わりに需給バランスを取る『成鶏更新・空舎延長事業』に力点を置いたらどうかとの案が浮上していると言われる。この場合『鶏卵価格差補てん事業』は国の補助(財源)分を少なくしたり、補てん割合を現行の9割から8割に減らすことで、生産者の積み立て分が自身に戻る一方、補てん額が少なくなるため、生産抑制につながるとの考えだ。

強化する『成鶏更新・空舎延長事業』については、①空舎期間の延長(現行60日間以上を90日以上に伸ばす)②ひなの再導入羽数を現在の4割以上から、2~3割に変更する③成鶏処理場の余力がないことなどを考慮して、レンダリング処理への対応を考える――ことなども検討しているようで、2020(令和2)年度予算案を省内で固める7月頃までにまとめたいとしている。

5月の補てん12.357円

日本養鶏協会は、鶏卵価格差補てん事業の5月の標準取引価格が補てん基準価格の185円を下回る171.27円となり、補てん金支払いは差額の9割に当たる1キロ当たり12.357円になると公表した。ただ、5月20日に成鶏更新・空舎延長事業が発動したため、10万羽以上規模層には20日以降分の補てん金を支払わない。