コレステロール「心配される栄養素ではない」 摂取量の推奨値撤廃へ 『米国人のための食事ガイドライン』
米国の栄養学、医学、公衆衛生の専門家らで構成する「食事ガイドライン諮問委員会」は2月19日、2015年版『米国人のための食事ガイドライン』の検討内容を米保健福祉省(HHS)と農務省(USDA)に報告した。
この中でコレステロールについては、「米国心臓病学会と米国心臓協会の報告書の結論と同じく、入手可能なエビデンスからは、コレステロール摂取量と血清コレステロール値の間に明らかな関連は示されていない。コレステロールは、摂りすぎが心配される栄養素ではない」として、2010年版の旧ガイドラインに記載していた「1日300ミリグラム以下」との推奨値を、新ガイドラインには記載しないとの見解を示した。
一方、飽和脂肪と糖分、塩分は摂りすぎだとし、高血圧や脳血管障害、心臓病、生活習慣病などのリスクを下げるため、摂取量の低減に向けた様々な方策を提言している。
「米国人のための食事ガイドライン」は公衆の疾病予防と健康増進などを目的に1980年に初めて発行され、最新の科学的な栄養推奨値などを医療や行政、政治、教育関係者向けに公表している。90年からは、HHSとUSDAが少なくとも5年ごとに改定するよう連邦法で定められ、2015年版が第8版になる。
今回の委員会の報告内容は、両省が19日付で公表し、45日間のパブリックコメント募集と関係諸機関への意見聴取、公開討論会などを経て、今秋に新ガイドラインが公表される予定。
動き出した行政
コレステロールが懸念すべき“悪者”でないことは、すでに多くの科学的な研究で明らかにされている。米国鶏卵栄養センターのドナルド・マクナマラ前所長は、08年と09年の来日講演で「最近15年間に発表された、コレステロールに関する疫学調査や臨床研究は、すべて『卵などに含まれるコレステロールと心疾患には相関がない』との結果になっている」と解説し、米国心臓協会が02年から、個人の週当たりの鶏卵摂取量について特に勧告していないことや、英国心臓財団も週当たりの鶏卵摂取量に関する勧告を取り下げたこと、カナダの保健省も食事のガイドラインに、コレステロールの摂取制限を設けていないことなどを紹介していた。
昨年9月にも、シドニー大学のニコラス・フラー氏が「卵を週に12個、3か月間摂取した糖尿病患者のコレステロール値は、週に2個未満のグループと変わらなかった」との研究成果を発表。日本でも富山大学の浜崎智仁名誉教授や東海大学の大櫛陽一名誉教授らが、95年以降に発表された大規模疫学調査のメタ解析(複数の論文を統合した解析)により、コレステロール値が低いほうが総死亡率が高くなることを見出している(本紙既報)。
このような研究成果を受けて、米国政府のガイドラインからもコレステロール摂取の推奨値が削除される流れとなったもの。わが国の厚労省がまとめている『日本人の食事摂取基準』も、今年4月から適用される2015年版から「日本人を対象にしたコホート研究のNIPPONDATA80でも、卵の摂取量と虚血性心疾患や脳卒中による死亡率との関連はなく、1日に卵を2個以上摂取した群とほとんど摂取しない群との死亡率を比べても有意な差は認められていない」などの解説が入れられ、現行の2010年版で「18歳以上の男性は1日750ミリグラム未満、女性は同600ミリグラム未満」としている目標量(上限値)も、算定に十分な科学的根拠が得られなかったとして撤廃している。
ただ、同基準には、卵とがんとの関連についての言及と、「コレステロールの摂取量は低めに抑えることが好ましいと考えられる」とのコメントは残っている。
学術界の科学的な研究成果が、ようやく行政を動かし始めてきており、今後はコレステロールと卵にまつわる誤解が完全に払拭されることが期待される。