日本食鳥協会が地鶏・銘柄鶏セミナー 高品質鶏としての特性解明 

(一社)日本食鳥協会(佐藤実会長)は9月29日、愛知県岡崎市の自然科学研究機構岡崎コンファレンスセンターで「地鶏銘柄鶏セミナー」【写真下】を開き、関係者ら約150人が出席した。
大島照明専務理事の司会で進め、冒頭あいさつした佐藤会長は、近年のサラダチキンの販売拡大状況について、市場拡大が業界誌でも取り上げられていることや、高い簡便性やヘルシーさから、「若い女性が(購入したその場で)袋を開けてそのまま食べるという食シーンもみられていると指摘されている」など、活用の場が広がっていることを紹介したほか、むね肉の高付加価値化の一例として、各地の地鶏を使った生ハムのシリーズ化なども提案。国産チキンシンボルマークの国内外での普及に向けた取り組みについても説明し、当日の講演内容について「私も非常に楽しみにしており、貴重な時間を頂戴して講演していただくため、皆さんも注目していただければと思う」と述べた。
(独)家畜改良センター兵庫牧場の池内豊場長が「地鶏銘柄鶏普及に向けた一考察」、女子栄養大学栄養学部の西村敏英教授が「地鶏の美味しさを探る―食味性の比較検討―」、鯉淵学園農業栄養専門学校の長谷川量平教授が「地鶏の産地形成とFCP」、㈱東京會舘調理・製菓部の大野光部長が「地鶏、銘柄鶏の特徴を活かした伝統から生まれる料理」、徳島県立農林水産総合技術支援センター畜産研究課の藤本武主任が「『阿波尾鶏』の需要拡大戦略」のテーマで講演した。
池内氏は、国産鶏種の生産状況と、出荷ベースの鶏種の国内自給率が推定1.66%にとどまることなどに触れたうえで、海外の銘柄鶏の取り組みを解説。
英国については、英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)が1995年に創設したアニマルウェルフェア基準「フリーダムフード」が舎内飼いでは①スローグローイング(1日の増体は52グラム以下)②飼養密度は1平方メートル当たり19羽未満③止まり木、つつき用資材などのエンリッチメント――などを求め(放し飼いなどの基準もある)、これにのっとった鶏のシェアが7%に達していることを説明。
フランスの地理的表示認証制度「統制原産地呼称(AOC)」「赤ラベル(ラベルルージュ)」「品質適合認証(CQC」、オランダの動物愛護団体による認証制度「ベターレーベン」、生産者とスーパーマーケットが共同でPRした通常のブロイラーとベターレーベンの中間に当たる鶏肉のコンセプト「チキン・オブ・トゥモロー」などの設立経緯や仕組みなども紹介した。
オランダの「チキン・オブ・トゥモロー」は、鶏の飼い方について①日増体量が50グラム以下②現状の鶏舎形態には制約を加えない③飼養密度は従来よりやや低く、止まり木などエンリッチメントがある環境で飼育――などの基準を求めるもので、同国では2020年までにスーパーで販売するすべての正肉を「チキン・オブ・トゥモロー」のものに置き換えるとのこと。
日本の地鶏の課題としては、銘柄ごとに販売するため、ロットが限られ、定時定量販売が困難で、一般の流通に乗りにくい点を挙げ、「海外の事例のように、全国共通またはスーパー単位での認証が機能していれば、生産流通面で定時定量が確保され有利性が発揮できる」ものの、「日本の地鶏や、銘柄鶏の生産・流通形態を踏まえ、地鶏・銘柄鶏全体としてプロモーションを図るような販売戦略を構築することが必要」と指摘した。
西村氏は、人がおいしさを感じる仕組みや、「うま味物質」がおいしさに与える影響、日本食鳥協会の事業の一環で実施した「地鶏の食味性の比較検討」の結果について説明。
地鶏や銘柄鶏をおいしさで差別化するためのポイントとして、①味だけでなく、香りや食感についても特長を調べる②客観的なデータ(エビデンス)により、訴求ポイントを分かりやすく、具体的に示す③地鶏・銘柄鶏の特長が出やすい調理方法も表示して、特長をアピールする――の3点を挙げた。
長谷川氏は、地鶏の販売戦略にも応用できる販売理論として、今村奈良臣東大名誉教授の「P―SIX」理論や、P―SIXの市場的条件①プロダクション(生産)②プレイス(売り場)③プライス(価格)――、主体的条件①プロモーション(やる気、動機づけ)②ポジショニング(立地)③パーソナリティ(人材)――のうち、市場的条件を達成するのに役立つツールとして、農水省が2007年から積極的に進めている「FCP(フード・コミュニケーション・プロジェクト)」(食品事業者や関連事業者、行政などの連携を通じて消費者の食に対する信頼を向上させる取り組み)について紹介した。
大野氏は、地鶏や銘柄鶏、ブロイラーのそれぞれの特徴や、講演に先立って産地を視察したことなどを紹介したうえで、地鶏について①丁寧な飼育がなされていて、味にこだわりを持って育てている②地鶏の肉質や風味を生かす調理方法を考える③地鶏と相性の良い食材を探す④地鶏(の特長)をフランス料理によって最大限引き出せないか⑤料理人としての集大成で、料理内容を考える⑥まずは基本となる調理法で地鶏の味をみる――との理由や動機から、フランスなどの伝統料理にのっとって考案したメニューの中から、①「名古屋コーチン(めす)のヴェッシー包み」(皮にトリュフを挟んだ丸どりを、豚の膀胱で包み、同じく名古屋コーチンのコンソメで火を通し、煮汁をソースと合わせた料理)②「阿波尾鶏と浅蜊・旬野菜のココット焼き」③「青森シャモロックとシーフードパエリア」――の調理法を解説した。これらの料理は、食鳥協が発行する29年度の「地鶏レシピ集」に収録されるほか、同協会は11月28日にも試食会を開く予定。
藤本氏は、徳島県では中山間地域が県の面積の7割を占めることなどから、小規模農家が鶏肉生産に取り組んできたものの、大規模化が難しい中で、競争力ある地鶏を戦略的に開発してきたことを紹介。
地域の関連企業や農家と協力して設立した「阿波尾鶏ブランド確立対策協議会」で①原種鶏農場の支援②特定JAS地鶏肉取得③農場衛生対策④担い手支援(レンタル鶏舎、ICT鶏舎)など⑤指定販売店制度⑥統一した効率的なメディア戦略⑦地域のアニメ「おへんろ」に登場させるなど、異業種とのコラボレーション⑧地域資源循環⑨香港への輸出――などに取り組み、生産羽数は平成10年に地鶏として日本一の61万羽となり、16年には200万羽を超える203万羽、28年は208万羽で推移していることを説明した。
今後については、新たな販路開拓や、鶏舎・処理場の整備、HACCPやGAPなどの認証制度の取得支援などを進め、「年間出荷羽数300万羽」を目指して頑張っていくと述べた。

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