獣医学部の新設、特区になじまず 日本獣医師会が見解表明
政府の国家戦略特区制度を活用して、愛媛県今治市に新設を予定する学校法人『加計学園』の獣医学部をめぐり、国会などでその選定の経緯などが問題になっているが、この問題について慎重な姿勢を示してきた全国の獣医師の集まりの(公社)日本獣医師会(藏内勇夫会長)は、6月22日の通常総会後に「獣医師の需給問題の解決や獣医学教育の改善に、特区制度に基づく対応はなじまない」などとする日本獣医師会としての考え方を発表した。
同会の見解によると、わが国の獣医師の需給については、「地域・職域の偏在はみられるものの、全国的な獣医師総数は不足していない」とし、同会としても農林水産省の支援・協力により「魅力ある職場の提供、処遇改善などによる地域・職域偏在の解消」に努める一方、獣医学教育に関しても、文部科学省、獣医学系大学などとともに、「半世紀にわたって国際水準達成に向けた教育改革に尽力してきた」としている。
今回、国家戦略特区制度に基づき、獣医学部の新設が決定されたが、全国的観点で対処すべき獣医師の需給問題の解決や、長期的な視点で将来のあり方を十分検証して措置すべき獣医学教育の改善については、「特区制度に基づく対応はなじまない」とするとともに、同会が従来から表明していた「現在優先すべき課題は、地域・職域対策を含む獣医療の提供体制の整備・充実、獣医学教育課程の改善にあり、このためにも獣医学入学定員の抑制策は維持する必要がある」との立場を強調。
その上で、獣医学部の新設を許可するか否かについては、閣議決定された4条件や「大学設置等に係る認可の基準」などに照らし、「獣医学教育施設や教職員体制等について、国において決定されること」であり、同会としては現在、文部科学省に設置された大学設置・学校法人審議会の「審議の推移を慎重に見極めるとともに、国においてどのような結論が下されるにしても、常に公平・中立な立場で国民生活に貢献できるよう、わが国の獣医療の発展に尽くしていかなければならない」としている。
農水省などの資料によると、獣医師の免許を保有する人は、平成26年で約3万9100人。
活動分野別では家畜や家きんの産業動物診療が11%に当たる約4300人、家畜伝染病の防疫や食肉検査・食品衛生監視などの公務員(農水分野、公衆衛生分野など含む)が24%の約9500人、犬、猫などペットの小動物診療が39%の約1万5200人、大学の教員や医薬品の開発などその他分野が14%の約5600人、獣医師として活動していない者(結婚や出産、子育てで離職している女性獣医師を含む)が12%で約4600人。
わが国の獣医系大学は16校(国立10校、公立1校、私立5校)。
平成27年度の獣医師国家試験は1229人が受験し、合格者は1024人(合格率78.8%)。獣医大学卒業生の進路は10年前に比べ、小動物診療分野で減少傾向がみられる一方、公務員分野と産業動物診療分野で増加傾向となっているとしている。また、獣医師のうち、20~30歳代で女性獣医師が増加し約半数を占めている。