卵の「小玉」ニーズの動向 回答累計の小玉使用量は5年間で21.9%増 外食・中食、加工、小売り各社にアンケート調査

近年、鶏卵業界では「小玉ニーズの高まり」が指摘され、相場も、MSやSサイズがMサイズを頻繁に上回っている。
MSがMを年間平均で上回ったのは、14年前の2002年が初めて。その後は、半期平均でみると05年上期、06~07年上期、08年、10~12年上期、14年にも、MSの平均相場がMを上回っている。
昨年(15年)の相場(東京・加重平均)は、年間平均はM228円に対し、MSは7円高の235円、Sは4円安の224円となったが、上期はMに比べてMSが16円高、Sが6円高となった。
今年は、東日本の増産傾向や夏の暑熱による産卵サイズの低下などで、8月下旬以降、小玉の余剰感が強まり、9月のMS平均相場はMに対し東京と大阪で15円安、名古屋で10円安となり、福岡のみが10円高となっている。
このような近年の〝小玉高〟の背景として、生産面からは「採卵鶏が小玉を産む期間は短く、生産量がどうしても限られる」一方、需要面からは、①小売業界で「LやMなど単独サイズのパック卵の割合が減少」し、MSなどの小玉を含む「定重量のミックスパックやブランド卵の割合が増加している」②ドラッグストアやディスカウント店を中心に、厳しい価格競争の中で「粒単価が低い小玉パックの取り扱いが増えている」③加工業界では、拡大するコンビニエンスストアや食品スーパーなどの総菜向けに、「小玉を原料としたゆで卵や味付け卵、温泉卵などの加工卵が使われる機会が増えている」④外食・中食業界では商品単価を抑えるために、「卵を使ったメニューの原材料に小玉を使う企業が増えている」――ことなどが指摘されている。
ただ、これまで小玉に焦点を当てた統計や、需要がどの程度増えているかについての調査はなかったことから、鶏鳴新聞では今年8~9月にかけて、小玉の使用状況について大手スーパー各社や、鶏卵加工メーカー、外食・中食企業などにアンケート形式で質問し、販売現場の声を集めた(多くの企業から回答をいただいたが、すべての小玉需要を追跡できていないため、増減などの数字は参考として捉えていただきたい)。

小玉需要の調査結果、鶏卵相場と同じ推移

アンケート調査の中で、2010年から15年まで5年間の小玉(MS、Sサイズの殻付卵)の使用量の変化について、「加工」「外食・中食」「小売り」の各業界の大手各社に聞き、回答を加重平均したところ、この期間に小玉の使用量は、加工業界で25.6%、小売業界で19.8%、外食・中食業界で13.9%増えていた。1社当たりの平均使用量は、加工業界が最も多かった。
なお、外食・中食業界では、①企業数が特に多く寡占化率が低いため、調査対象もごく一部にとどまった②小玉を殻付卵で仕入れる場合と、加工卵として仕入れる場合がある③企業によっては対象期間中の店舗増が需要増の大きな要因として働いた――といった問題があるが、単純に3業界の回答を合計した小玉の使用量の推移と、鶏卵相場を重ねてみると、小玉の需要と鶏卵相場は、密接に連動しているように見える。
3業界合計の小玉の使用量は、10年から12年までは3.3%減、12年から15年までは27.4%増、10年から15年まででは21.9%増となったのに対し、鶏卵相場は10年から12年までは4.3%安、12年から15年までは27.4%高、10年から15年まででは小玉使用量の推移と同じ21.9%高となった。
変動率の一致は偶然とも考えられるが、傾向としては、「MSが高い年は相場も高くなる」と流通関係者が指摘していることと一致しており、近年は「小玉の需要動向が、相場を左右する要因になっている」とも言えるようである。

小売りの小玉需要増、節約志向なども反映

ただ、小玉の使用量を企業別にみると、事業展開や販売戦略の方向により、減少から大幅増までさまざま。
特に小売業界では、MSパックなどの特売頻度の減少から、小玉の取り扱いが10年前より1割程度減少した大手チェーンがある一方で、鶏卵の販売を伸ばしているドラッグストアチェーンからは、小玉の取り扱い量がこの10年間で約7倍に増えたとの回答もあった。
中部地方から西日本などにかけては、MSなどの小玉やミックスパックではなく、Lサイズのパック卵を好む消費者が多い地域もあるなど、可処分所得や人口構成とも関係しているとみられるが、サイズへの需要も、全国均等ではない。
ただ、スーパー各社からは、〝低価格商品を求める消費者が多い〟との指摘は多く聞かれ、関東地方のスーパーからは「(鶏卵)相場が高止まりしているので、価格重視の消費者のMS卵の購入が増えている」との指摘もあった。
MSサイズが入ったパック卵を選ぶ消費者層については、「30~40代の主婦層」「6個入りは単身者や高齢者」「ミックスの10個入りは主婦層」など、食べる量が少ない、あるいは日配品の価格に敏感な層が挙げられた。

外・中食業界は変化なしも多く

一方、外食・中食業界の小玉需要については、前記の問題があり全体像は不明だが、回答からは、喫茶店業界のモーニング需要の高まりが、需要増につながっている状況がうかがわれた一方、ファストフードなど大手外食や中食チェーンの間では、〝変わっていない〟との回答や、メニュー規格によりSやMSを〝使っていない〟との回答も多かった。
大手外食・中食チェーンでは、メニューが定期的に変わることから、小玉を使ったメニューの発売やヒットなどにより、一時的に小玉需要が上昇することはあっても、数年間のスパンで小玉需要が増加するといった傾向は、明確にはみられないようである。
小玉を使ったメニューを注文する客層については、大手外食チェーンの間では、「年齢や性別を問わず注文をいただく」といった回答が多かったが、半熟卵については、「女性や子供からの人気が高い」との回答もあった。

加工需要には人手不足や簡便志向も影響

ただ、最近の小玉の利用動向などについて、自由に記述してもらった回答からは、外食業界の調理現場の〝人手不足〟や、これに伴う〝効率化〟〝利便性〟の追求、さらに小売業界各社が直面する購買層の〝少子高齢化〟や〝共働き世帯の増加〟〝景況感の低迷〟などに伴う〝個食化〟や〝簡便志向〟〝時短志向〟〝低価格志向〟の高まりなどが、小玉を使ったゆで卵や温泉卵などの需要動向にも影響している状況が、浮き彫りとなった。
飲食店など業務向けの小玉製品の需要について、加工業界の各社からは「外食においては、半熟卵、温泉卵は定番化し、安定して使用いただいている。今後も需要は増えると思われる」「今後も半熟などのソフト系のゆで卵を中心に、作業の効率アップを主目的とした需要増が見込まれる」といった回答が寄せられた。また、価格に対する要求がシビアな顧客では、「サイズへの要求も細かくなっている」といった声も聞かれた。
小売り向けの小玉製品の需要についても、「近年、コンビニ向けが圧倒的に増加傾向にある」「(卵を使うと)商品の総コストに対しての見映えが良くなることから、コンビニのサラダや麺類、洋風の総菜品向けのほか、スーパーの日配総菜向けの引き合いが強まっている」などの回答が聞かれた。
これらの要因から、小玉を使ったゆで卵や半熟卵、温泉卵などの『加工卵』の需要に関しては、食品メーカーや外食業界にとどまらず、総菜品を充実させているスーパーやコンビニエンスストアなどの小売業界向けにも、一層高まっていくとみられる。

小玉を使った加工卵に対する、最近のニーズについては、半熟卵や味付きの温泉卵商品など、より付加価値の高い〝ソフトタイプ〟の加工卵の需要が上昇しているとの回答が目立った。「ふわふわ」「やわらか」などの食感の人気や、高齢化に伴うソフト食への需要の高まりなども背景にあるとみられる。
これらのソフトタイプの卵は、家庭でつくるのも難しいが、業務用でも生産・流通の過程などで割れなどのロスが多く、コストが上がりやすいため、製造現場の悩みにもなってきているようだ。
小玉需要が外食・小売業界で増える中、大手中食企業からは、最近の小玉需給について「MSはコンビニとバッティングするため、使用しづらい」との声も聞かれるようになっている。
加工業界からは、小玉不足の局面で、ゆで卵の原料卵も「M以上のものにいくらかシフトしていく可能性もあるが、大きくなると加工がしにくくなる」との指摘もあるなど、小玉需要の高まりやニーズの変化が、新たな課題も生んでいるようだ。

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