全力で安全・安心を

タマゴの業界は昨年、鳥インフルエンザの発生など、かつて経験したことのない苦難で厳しい多くの出来事に遭遇し、経営そのものの存続を、厳しく問われた。
幸い、後半から上昇に転じた“棚ぼた卵価”によって、生産者に限っては、一昨年の戦後最悪の事態をかろうじて脱し、まずまずのお屠蘇気分に浸れたのではなかろうか。ただし、鳥インフルエンザ発生云々の恐怖が、常につきまとった中での祝いであることはいうまでもない。
消費の伸び悩みが懸念される中では、規模拡大や価格競争の時代は過ぎ去り、品質で利益を追求する時代になっている、と指摘されながら、方向転換はなかなか進んでいない。「しっかりしろ」と、“檄”の一つも飛ばしたくなるほど協調性に欠け、取り巻く関連産業に対する思いやりの薄い一部の生産者は、この高卵価を契機に再び箍(たが)が緩むのではないかと危惧される。
各種のデータからも、今年はまずまずの卵価であろうと予測されている。“後門の狼”が数多く待ち受けており、経営を見直す最後のチャンスだと肝に命じて、全力で諸課題の解決に取り組むことが大切である。
今年の鶏卵、鶏肉産業の最大の共通課題は、ニワトリ産業の崩壊にもつながる鳥インフルエンザを、何としても国内で再発させないことである。そしてHACCP手法やトレーサビリティシステムなどを駆使して、消費者に安全・安心な国産の鶏卵・鶏肉を供給することであり、それが国産の生きる道である。
特に、鳥インフルエンザは、今も東南アジアで再発が続いており、年末には台湾で渡り鳥からウイルスが分離され、韓国でもアヒルへの感染(H5N2)が報告された。国内にウイルスを持ち込ませない、検疫体制の強化と、養鶏現場では鶏舎内にウイルスを入れない防疫対策の徹底が、強く望まれる。
ただし、ウイルスはどこから飛んでくるか分からず、しかもアジアでの高い感染圧が続いている中で生産者は、ワクチンの使用による予防を強く求めている。3種類の鳥インフルエンザ不活化ワクチンの製造・輸入が、薬事法に基づき承認され、農水省はこの中から入札で備蓄用ワクチンを積み増しした。
ワクチンの開発技術の進歩によって、発症防御のみならず感染も防御するほど強い免疫を付与する優れたワクチンの完成が、今回の輸入承認における国内試験の中で明らかになった。感染リスクを減らすための予防的使用への期待も、一層高まる。
昨年の風評被害の教訓から、消費者や食品ユーザー、マスメディアに正しい情報を伝え、無用の風評被害をもたらさないためにも、官民の協力がより重要である。
安全・安心は、もはや当たり前の時代であるものの、これら安全・安心のリスク管理には当然コストがかかる。環境問題への対応、国際化に耐えうる生産・流通体制の構築、担い手である後継者や労働力の確保、少子高齢化が進む中での消費者ニーズに対応した生産、需要に見合った計画的な生産、価格形成、消費促進など、課題は山積している。今年こそ、需給の安定を長続きさせ、業界の抱える諸課題の解決に全力で取り組みたいものだ。

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