香川県でのHPAI疫学調査 4月も警戒が必要 感染鶏からの排せつ量少ない
農林水産省は3月28日、2回目の「平成29年度における高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生に係る疫学調査チーム検討会」を開き、1月に香川県で確認されたHPAI(H5N6亜型)の発生事例について検討を行なった。最終的な疫学調査報告書は、今年4月下旬を目途に公表することになった。2回目の同検討会の概要は次の通り。
現地調査等の概要
第1回検討会以降に新たに判明した事項はないものの、農研機構動物衛生研究部門から2016―17年シーズンのHPAI発生に関し、農場近接の水辺と発生の有無に関する論文が発表され、同シーズンでは近接の水辺の存在が家きん農場におけるHPAIの発生と有意に関連することが示されたことから、報告書でも記載することとされた。
分離ウイルスの特徴
(1)島根県の死亡野鳥(29年11月)、東京都の死亡野鳥(30年1月)と兵庫県の死亡カラス(30年3月)から検出されたウイルスは相同性が極めて高かったが、香川県で検出されたウイルスとは明確に区別された。一方、韓国の野鳥(マガモなど)から検出されたウイルスと香川分離株は極めて近縁であった。
(2)感染試験の結果から、
①香川県で検出されたウイルスは、昨年度までに検出された高病原性鳥インフルエンザウイルスと同様に鶏に対し高い致死性を示した。
②これまでに国内で分離されたウイルスに比べて、感染の成立には比較的多くのウイルス量が必要であった。また、感染の拡大には複数の家きんとの密接な接触が必要であることが示唆された。
③これまでに国内で分離されたウイルスに比べて、感染鶏から排せつされるウイルス量は10分の1~100分の1倍程度少なかった。
ウイルスの侵入時期および経路
(1)国内への侵入経路・時期
今シーズンの渡り鳥の渡り動向は例年に比べて大きな変化はなく、香川県で検出されたウイルスと韓国の野鳥から検出されたウイルスは極めて近縁であったことから、昨年末以降、渡り鳥によってこれらの地域にウイルスが持ち込まれたと考えられた。
渡り鳥の北上は始まっているものの、4月までは国内に存在するとされており、また、過去には4月に本病の発生が確認された事例もあることから、越冬を終えて営巣地に向かうまでの間は警戒が必要であることが再確認された。
(2)鶏舎への侵入時期・経路
発生状況、飼養衛生管理の状況などからは、特定の経路から家きん舎内にウイルスが持ち込まれたことを示す情報は得られていない。近接の水辺の存在が家きん農場におけるHPAIの発生リスクを高めることが示唆され、香川県の事例では発生農場の敷地のほぼ中央にため池が存在することから、ウイルスが鶏舎周辺に存在し、人、野生動物など何らかの形でウイルスが鶏舎内に侵入した可能性が考えられた。
香川県でのHPAI発生に係る初動対応の検証
目的
今事例では、通報当日(1月10日)の簡易検査に引き続き実施した精密検査の結果、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)と判断するには至らず、翌日の再検査で同病の疑似患畜と判断された。このため、香川県と農研機構動物衛生研究部門における検査成績の比較、分離ウイルスの感染試験により明らかとなった性状などを踏まえて今後の検査体制を検討するため、初動対応を検証する。
検査および試験結果
(1)検査成績の比較等
①香川県で遺伝子検査に用いた検体を使って農研機構動物衛生研究部門で同検査を実施したところ、両者の検査結果は矛盾しないことを確認した。
②香川県が実施した死亡鶏の病理組織検査では、ウイルスと大腸菌症の混合感染所見が確認された。
(2)分離ウイルスの性状
①分離ウイルスは、昨年度までに検出されたウイルスと同様に、鶏に対し高い致死性を示したが、これまでの分離ウイルスに比べて、感染鶏から排せつされるウイルス量は10分の1~100分の1倍程度少なかった。
②これまでの分離ウイルスに比べて、感染の成立には比較的多くのウイルス量(2011年分離株と比べて100倍程度)が必要であった。また、感染の拡大には感染した複数の家きんとの密接な接触が必要であることが示唆された。
検証の結果
・感染鶏からのウイルス排せつ量が少なく、感染の成立に多くのウイルス量が必要なことは、従来に比べて死亡家きんにおける簡易キットの検出率が低い結果を支持するものであった。
・死亡家きんの簡易検査の検出率が25%であったことから、少なくとも感染鶏を1羽以上確実に検出できるように死亡家きんの検査羽数を設定する必要がある。
・農研機構動物衛生研究部門が気管スワブの採取を行なった際には、気管切開の有無により検査結果に差が認められなかったが、現場で採材にあたる者の手技などにかかわらず確実な採材を可能とするため、切開して採材することを推奨する必要がある。
・香川県の検査手技については問題がなかったが、大腸菌などの複合感染が検査結果などに影響を与えた可能性も否定できなかった。
今後の対応
検証の結果を踏まえ、農林水産省が今年1月15日に通知した検査体制の強化(検査羽数を5羽から11羽へ増加、採材は解剖して確実に実施)は、引き続き実施していくことが適当である。また、ウイルス株の性状により排せつ量が異なる可能性を踏まえると、今後の発生事例でも、家きんから分離されるウイルスを用いた感染試験などによって検査の信頼性を確認する必要がある。
各県は家畜疾病の診断体制の信頼性を確保するため、引き続き家畜保健衛生所における精度管理体制の整備を進める必要がある。
このほか、大腸菌などの複合感染が検査結果などに影響した可能性が否定できないことから、追加的に再現試験を実施し、複合感染の影響を確認する必要がある。