「緊急事態宣言」に伴う鶏卵・鶏肉需給の変化

業務・外食向けはかつてない苦境に 家庭向けは徐々に落ち着きも

新型コロナウイルスの感染拡大に対応し、政府は4月7日から5月6日までの予定で、7都府県を対象に「緊急事態宣言」を出し、これを受けて外出自粛や休業などを要請する自治体が増えている。これらの対策に伴う鶏卵・鶏肉の需給状況の変化や課題について、流通・販売を担う現場の声を、緊急事態宣言の対象が全国に拡大する前の段階で聞いた。

鶏卵

5月以降は需給調整必要な可能性も

緊急事態宣言に伴う鶏卵需給への影響については、飲食店や行楽・観光地の大幅な需要減が挙げられたほか、パック卵需要の落ち着きも多く指摘され、これにより全体の需給が、供給過多に転じつつあるとの声も聞かれている。

【東日本・北海道】関東では、飲食店の営業時間短縮や大手チェーンを含む休業の広がりで、業務需要が半分以下に減少し、キャンセルも増加。飲食店向けが中心の問屋や産地も、かつてない販売減に苦しむなど、川上の流通・生産業界にも影響が及んでいる。

大手牛丼チェーンなどは持ち帰り需要の拡大に取り組んでいるが、家庭で食べる場合は、生卵はなかなか持ち帰ってもらえないのがネック。サイズ別では、これまで大玉需要の担い手だった中華料理店にも休業や時短営業が広がっていることから、特に大玉の需給失調が懸念されている。給食需要も引き続き失われている。

加工需要も一層弱くなっている。中食総菜向けなどのボイル需要はあるものの、ビジネスや社会活動の停止で贈答用の菓子などの消費が壊滅的になっているため、液卵需要が低迷。一方、余剰卵は増えているため、今後は受け入れが厳しくなるとの見方が出ている。

テーブルエッグ需要も、食料品の買いだめの一巡や特売の中止などから、4月第2週後半前後を境に、需要の落ち着きがみられ始めている。大手スーパーでは、週末に向けて発注量が増加する傾向は残っているが、3月のように何らかの発表後に発注を突如倍増させるようなことはなくなってきている。基調としては例年を1~5割程度上回る販売が続いているが、店頭の卵の売り切れは、あまり見られなくなっている。

独自の緊急事態宣言を再度出した北海道も同様で、業務需要の厳しさに加え、パック卵の需要増も「1割に満たない」などの声が聞かれ始めている。

このような需要面の変化から、供給面ではスーパー中心の産地を除いて、荷余り感が出てきている。年初のえ付け羽数の多さから、後半の需給失調への懸念も続く中、「5月以降には(自主的減産など)需給調整が必要な局面も出てくるのでは」との指摘も。外食の一層の縮小と、ドラッグストアなどの需要継続から、サイズ間では大玉の余剰と小玉の不足傾向は続きながらも、相場には下げ圧力が徐々に高まっていく可能性が指摘されていたが、4月20日には各地とも10円下げた。今後の卵へのニーズは、経済の悪化に伴う節約志向が一層強まる中で、身近で手頃な栄養源としての安定的な供給が、関係者の努力により変わらず続いていくとみられている。

【中京】中京も関東と同様に、宣言前から名古屋市内など都市部の飲食店向け需要は平均で2~3割強減少していたが、宣言後は「さらに減る」との見通しが強まっている。時短や休業を始める店舗も増えている。

スーパーやドラッグストアなどの小売り関係の需要も、3月には一時的に買いだめ対応とみられる受注増があったものの、4月に入ってからは落ち着き、目立った増減はないとのこと。特売を続ける店舗もあるため、週末に向けた注文が集中する傾向はあるが、平日は予測を下回る日も出ている。また特売自体も、クラスターの発生を避ける目的などから関東と同様に、なくなっていくとみられている。

これらの需給環境から、量販店のパック卵需要は前年同月を上回って推移しているものの、百貨店などの食品売り場で販売されている高付加価値卵の販売減が懸念されるため、「小売り全体を平均すると、例年を上回っているとは言えないかもしれない」との指摘も聞かれるなど、需給は緩和傾向で推移するとみられている。

【近畿】大阪・兵庫でも、量販店やドラッグストア向けのパック卵の販売は増えているものの、外出自粛や飲食店の営業時間短縮・休業などで、業務・外食向け需要の厳しさが増している。

特に、多店舗展開する企業に休業が広がっているため、業務関係の流通については定期の荷物が受けられない状況となっている。加工需要も増えていない。

4月初旬までは業務・外食の減少を、パック卵需要が補う構図が続いていたが、第3週に入って潮目が変わり、小売りでは余剰を吸収できなくなってきているようだ。特売も各スーパーでストップする方針が出ているとのこと。

今後も、例年であればゴールデンウイークを控えた需要の盛り上がりが期待できるが、今年は人が動けなくなっているため、需要動向は非常に不透明で、内食・中食需要の動向に左右されるとみられている。

【九州】福岡でも、4月第2週から外食向けが半分程度に落ちているとの声が聞かれている。

スーパーは5割増を維持する所もあるなど好調だが、鶏卵需要全体でみると「外食の減とスーパーの伸びを合わせて5%増程度ではないか」との見方が出されている。

九州中部からも、テーブルエッグ向けは10~15%程度の伸びで、大型店と小型店の競争も激しく、1パック100円未満の特売を続けているところもあるが、「総じて特売は少なくなっている」。全体については業務用の減少と合わせて「需給は見合っているのでは」との声が聞かれた。

鶏肉

相場はもちあい圏内で推移か

国産チキンは、テーブルミートとしての需要は堅調だが、外食・贈答向け需要に支えられていた副産物や親鳥、地鶏などは厳しい需要減の影響が出てきている。消費全体としても、高付加価値商品に逆風が吹いており、これから不況が深刻化するとの懸念もあってか、節約志向が一層強まっているようだ。

地鶏については江藤農水大臣も4月10日の記者会見で、学校給食への影響に関連して比内地鶏の価格などが特に下落していることに言及。支援の必要性などを指摘した。

【九州】各地の傾向も同様だが、多様な鶏食文化を持つ九州でも、テーブルミートとしての国産もも肉の需要は一層高まっているもよう。個配・通販のニーズが高まる中、生協も人気で「宅配量が倍以上になることもある」状況。店舗と合わせた小売り全体でも、1~2割の需要増が続いているようだ。緊急事態宣言後は、この傾向が継続していくとみられている。

これら内・中食に対応した業態以外は軒並み厳しい状況。特に飲食店や宿泊・宴会施設に加えて、高付加価値の食鳥肉の主要な小売りチャネルだった百貨店の休業が、地鶏や銘柄鶏などの流通・生産に強い悪影響を与えている。

【近畿・中部圏】小売り需要は他の地域と同様に、例年を上回っているものの、買いだめも一巡し、今後は落ち着いていくのではないかとの見方が出てきている。

一方、外食関係は、平時の7割から4割など、ホテル・宴会・観光関係はほぼゼロになるところもあるなど、厳しい販売減に直面している。「生きていくためにテイクアウト(持ち帰り)に取り組んでいるところは何とか売り上げを出している」ものの、「量的には数%。厳しい状況には変わらない」とも指摘されている。

【東日本】消費面では、他の地域と同様に、飲食店の休業やイベント・インバウンド需要の激減、学校給食の停止などで業務需要が大きく減少し、これらの需要に対応していた輸入品や国産の高付加価値品などの消費が大幅に減っている。一方、内食・中食需要に対応した量販店や食鳥専門店などの国産鶏肉や加工品には荷動きがみられているが、買いだめが一巡すれば、基調としては例年を上回る底堅い消費が続くものの、引き合いは落ち着いていくともみられている。このような需給環境の中、生産は引き続き順調なため、相場はもちあい圏内で推移するとの見方が多いようだ。