家伝法を今国会で改正へ 予防的殺処分対象にASF、鳥インフルエンザは対象外
農林水産省は、1月20日から始まった通常国会で、家畜伝染病予防法の改正を行なう方向で法案の作成を進めている。改正案は、2018(平成30)年9月に、わが国では26年ぶりに岐阜県で発生したCSF(豚コレラ)が現在までに野生イノシシ12県、飼養豚1府9県へと拡大し、いまだに終息のめどが立っていないことから、①野生動物の感染に対する対策強化②飼養畜産農場における飼養衛生管理基準の徹底③輸出入検疫の強化による悪性伝染性疾病の侵入防止――などを柱として見直すもの。
ASF対応改正案は議員立法で
現在の家畜伝染病予防法(略称・家伝法)は、2004(平成16)年1月に山口県で79年ぶりに高病原性鳥インフルエンザが発生し、以後、断続的に発生が継続していたことや、2010(平成22)年4月に10年ぶりに宮崎県で口蹄疫が発生して大きな被害(約30万頭の牛豚などの殺処分)をもたらしたことを受けて、2011(平成23)年3月に国会に改正案が提出され、3月29日に成立、4月4日付で公布されたもの。
この時の改正ポイントは、①海外からのウイルスの侵入を防ぐため、水際での検疫措置を強化②家畜の所有者は、日頃から消毒などの衛生対策を適切に実施するとともに、家畜の飼養衛生管理の状況を都道府県に報告。都道府県は適切に行なわれるよう指導・助言、勧告、命令③飼養衛生管理基準の内容に埋却地の確保などについても規定④患畜・疑似患畜の届出とは別に、一定の症状を呈している家畜を発見した場合、獣医師・家畜の所有者は、都道府県へ届出⑤口蹄疫のまん延を防止するためにやむを得ないときは、まだ感染していない家畜についても殺処分(予防的殺処分)を実施し、国は全額を補償(この規定については当初、農水省内には高病原性鳥インフルエンザにも適用しようとの考えもあったとされるが、養鶏業界の反対で口蹄疫のみになった)⑥発生時において都道府県は消毒ポイントを設置でき、通行車両は消毒を受ける⑦口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザなどの患畜・疑似患畜として殺処分される家畜については、特別手当金を交付し、通常の手当金と合わせて評価額全額を交付⑧ただし、通報などの防止措置を怠った者に対しては、手当金・特別手当金を減額または不交付――など。
農水省は、今国会に提出する家伝法改正案では、①「飼養衛生管理」の国・都道府県・市町村・家畜の所有者などの責務の明確化②野生動物におけるCSFの拡散防止・清浄化は中長期化が見込まれることを踏まえた、野生動物における悪性伝染性疾病(牛疫、牛肺疫、口蹄疫、CSF、ASF、高病原性および低病原性鳥インフルエンザ)のまん延防止に係る措置の、法への位置付け③都道府県における飼養衛生管理基準の順守に係る計画制度の創設や、農場ごとの飼養衛生管理の責任者の設置などによる、飼養衛生管理基準の順守徹底④近隣諸国におけるASFの急速な発生拡大を踏まえた「予防的殺処分」の対象疾病の拡大⑤わが国への入国者などに対するチェック機能を強化するため、家畜防疫官の質問・検査権限の拡大や、違法畜産物の持ち込みなどに対する罰則の引き上げ――などの対応を盛り込む予定。
養鶏関係では①~③の項目で、現状より厳しい対応が求められてくることになるが、最近の高病原性鳥インフルエンザの発生は限定的で、発生農場から横への感染の広がりも見せていないことから、「予防的殺処分」の対象疾病に加わることはない見込み。
通常国会は6月17日までの150日間で、東京都知事選(6月18日告示、7月5日投開票)や、7月24日に開会式を迎える東京オリンピックなどを控え、日程に余裕がないため、4月頃までの確実な成立を目指す。ただ、与党の自民・公明、野党4党派は、アジア地域の中国やベトナム、韓国などでワクチンもないASF(アフリカ豚コレラ)の発生が拡大していることから、緊急的に同病の国内侵入に備える必要があるとして、同病発生の場合の「予防的殺処分」ができるようにすることと、法律では、病名をアルファベットの略称は記載できないため、CSFは「豚熱」、ASFは「アフリカ豚熱」と名付けることを抜き出し、議員立法で家伝法改正案を提出。1月30日に成立した。