平成28年食中毒 事件数、患者数とも減少 1位ノロ、2位カンピロ
厚生労働省は3月16日、東京都港区の航空会館で薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会(部会長=五十君靜信東京農業大学教授)を開き、平成28年の食中毒発生状況を報告した。
28年の食中毒事件数は前年比62件減の1140件、患者数は2465人減の2万253人となり、事件数、患者数とも前年を下回った。
患者数が500人以上の事例は、①江東区(4月28日)の患者数609人(飲食店、鶏ささみ寿司、カンピロバクター属菌)②京都府(11月11日)の患者数579人(旅館、11月11~15日に旅館が提供した食事、ノロウイルス)――の2件。
死者が発生した事例は①旭川市(4月21日)の2人(家庭、イヌサフラン〔推定〕、植物性自然毒)②北海道(5月29日)の1人(家庭、スイセン、植物性自然毒)③宮城県(5月15日)の1人(家庭、イヌサフラン、植物性自然毒)④秋田県(4月23日)の1人(家庭、トリカブト、植物性自然毒)⑤千葉県(8月5日)の5人(老人ホーム、きゅうりのゆかり和え〔給食〕、腸管出血性大腸菌O157)⑥東京都(8月27日)の5人(老人ホーム、きゅうりのゆかり和え〔給食〕、腸管出血性大腸菌O157)――の6件14人(前年は5件6人)。
病因物質が判明した事例のうち、事件数が最も多いのはノロウイルス354件(前年比127件減)、次いでカンピロバクター・ジェジュニ/コリ339件(21件増)、アニサキス124件(3件減)、植物性自然毒77件(19件増)、ぶどう球菌36件(3件増)の順。サルモネラ属菌の事件数は31件(7件増)。上位5病因物質で事件数全体の81.6%を占めた。
患者数が最も多いのはノロウイルス1万1397人(3479人減)、次いでカンピロバクター・ジェジュニ/コリ3272人(1183人増)、ウエルシュ菌1411人(860人増)、サルモネラ属菌704人(1214人減)、ぶどう球菌698人(79人増)の順で、上位5病因物質で患者数全体の86.3%を占めた。
原因食品・食事が判明した事例のうち、事件数が最も多いのは魚介類173件(36件減)、次いで複合調理食品84件(15件増)、肉類およびその加工品80件(16件増)、野菜よびその加工品70件(22件増)、魚介類加工品19件(4件増)の順で、上位5食品で全体の37.4%を占めた。
患者数が最も多いのは複合調理食品2506人(649人増)、次いで魚介類1112人(520人減)、肉類およびその加工品1067人(493人増)、野菜およびその加工品619人(429人増)、穀類およびその加工品368人(235人増)の順で、上位5食品で患者数全体の28.0%を占めた。
卵類およびその加工品の事件数は3件(2件増)、患者数は106人(104人増)であった。
原因施設が判明した事例のうち、事件数が最も多いのは飲食店713件(29件減)、次いで家庭119件(2件増)、事業場52件(10件増)、旅館50件(14件減)、仕出屋40件(13件減)の順で、上位5施設で事件数全体の85.4%を占めた。
患者数が最も多いのは飲食店1万1135人(1599人減)、次いで旅館2750人(734人増)、事業場2002人(734人増)、仕出屋1523人(2807人減)、学校845人(218人増)の順で、上位5施設で患者数全体の90.1%を占めた。
都道府県別の事件数、患者数では東京都135件(14件減)・2276人(18人増)、神奈川県92件(2件増)・1624人(480人増)、大阪府91件(9件減)・1292人(58人増)の順に多かった。
月別では、12月が事件数115件(4件増)、患者数3379人(98人減)で最も多かった。
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食中毒部会では、ノロウイルス、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌の食中毒対策について議論した。
ノロウイルスについては、食中毒の約80%が調理従事者が原因であることから、調理従事者の健康管理と食品取扱者からの汚染防止が必要であるとし、大量調理施設衛生マニュアルの改正案に①10月から3月には、調理従事者が月に1回以上のノロウイルスの検便検査を受けることを努力目標にすること②衛生責任者は毎日、作業開始前に各調理従事者の健康状態を確認し、その結果を記録すること――を盛り込む対策案が事務局から示された。これに対し委員からは「ノロウイルスは明らかに感染症の領域に入っている」との指摘があった。
カンピロバクターについては、食中毒のほとんどが加熱不十分な鶏肉が原因になっており、①食鳥肉の処理段階での微生物汚染の低減②飲食店での加熱の必要性、加熱不十分な料理提供の防止③カンピロバクター食中毒に関する正しい知識の消費者への普及啓発――が課題として挙げられた。
「食鳥肉における微生物汚染低減策の有効性実証事業」では、食鳥処理場で使用が認められている殺菌剤を活用しながらカンピロバクター汚染低減策の実証実験を行なっており、28年度は青森県(過酢酸製剤)、宮崎県(酸性化亜塩素酸ナトリウム)、熊本県(微酸性次亜塩素酸水)、鹿児島県(亜塩素酸水、冷凍処理)の4自治体で実施中。29年度も希望する自治体で実施する。
また、昨年4月28日から5月8日まで全国5会場で開催された「肉フェス」のうち、東京・お台場と福岡の2会場で鶏肉の寿司を原因とする大規模食中毒が発生(患者数は両会場合計で875人)したことを踏まえ、①カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)の改正②飲食店営業向けリーフレットの作成③消費者向けリーフレットの作成④厚生労働省ツイッターで毎週水曜日に食中毒注意喚起ツイートを配信――に取り組んだことが報告され、「食鳥関係業界と連携しながら、食鳥処理後の鶏肉について、飲食店までの販売の過程で『加熱用』である旨の伝達を徹底するよう指導する」との対策案が事務局から示された。
腸管出血性大腸菌については、昨年8月に千葉県と東京都の老人ホームで「きゅうりのゆかり和え」を原因とする腸管出血性大腸O157の食中毒事件で10人が死亡したことを受けて、高齢者に野菜を加熱せずに提供する場合には次亜塩素酸ナトリウムなどによる殺菌を徹底するよう、厚生労働省が都道府県などに要請したことを紹介。
また、腸管出血性大腸菌感染症の感染者は5歳未満が最も多く、有症者の割合は14歳以下の若年層や70歳以上の高齢者が70%以上と高いことから、大量調理施設衛生マニュアルの改正案に「特に若年者と高齢者に対し、野菜や果物を加熱せずに提供する場合(表皮を除去する場合を除く)には殺菌を行なうこと」を盛り込む対策案が事務局から示された。