国際獣疫事務局(OIE)連絡協議会開く

鳥インフルエンザのコード改正と採卵鶏アニマルウェルフェア基準 21年5月のOIE総会で採択へ

農林水産省は6月17日、令和2年度第1回国際獣疫事務局(OIE)連絡協議会をウェブ上で開いた。この時期のテーマは例年、5月にパリで開催されるOIE総会の報告が中心となっていたが、今年は新型コロナウイルスの関係で中止となったため、今回は今年2月に開かれたOIEコード委員会の改正案などが報告され、意見交換した。

事務局の農水省からは、OIEコード委員会で提示された①鳥インフルエンザについての改正案②OIE通報対象のリスト疾病③その他の疾病(豚熱〈CSF〉の四次案や採卵鶏生産システムのアニマルウェルフェア四次案)――や、新型コロナウイルス感染症に対するOIEの取り組みなども報告された。

「鳥インフルエンザ感染症」の改正

鳥インフルエンザ感染症については、OIEのコード改正案では、「高病原性鳥インフルエンザ感染症(HPAI)」に変更し、低病原性鳥インフルエンザ(LPAI)はリスト疾病の要件を満たさないとして通報や定期報告の対象外(ただし、変異の可能性などを考慮してモニタリングは継続)に。また、自家消費用の裏庭養鶏の鳥は家きんの定義から外す――というもの。

この案に対しわが国からは、一部のLPAIは人獣共通感染症であることが知られているため、LPAIはリスト疾病から除外すべきでなく、自家消費用の鳥についてもLPAIモニタリングを継続すべき――と主張していた。

この結果、三次案は、人獣共通感染症であることが確認された家きんおよび飼育下の野鳥のLPAI(H5、H7に限定されない)は通報および定期報告対象とし、人獣共通か不明な場合は通報対象外に。また、LPAIモニタリングは新たな定義による「家きん」のみが対象で、野鳥および自家消費用の家きんは対象外――となった。

これに対する日本のスタンスは、①すべてのLPAIがリスト疾病から外れるのではなく、人獣共通感染症を引き起こすLPAIはリスト疾病とされることについては評価する②一方で、人に重篤な症状を引き起こすことを要件とした場合、健康影響の度合いが明確でない時点での通報対象とならず、対応が遅れる可能性がある。あらかじめ、LPAIの人の健康への影響等を迅速に評価して指定する手順を定めるとともに、新たに人獣共通感染症であることが判明した場合には幅広く通報対象とするなどの対応を求める③リスト疾病の要件を満たすLPAIについては、生体や物品の国際貿易による鳥および人の間の疾病拡大のリスクを分析し、必要な勧告を定めるべきではないか(特に生体)④通報から除外されたとしても、ウイルスの分布や病原性の変化の可能性を早期に捉えるため、世界的なLPAIモニタリングの結果を集積・分析・共有する仕組みを構築すべきではないか――との考えであることが農水省から説明された。改正案は、2020年5月総会の採択予定が、2021年5月に延期となったことも紹介された。

協議会メンバーからは、「モニタリングにより得られた情報が世界で共有されることが、新たなインフルエンザの変異株の発生に対応する上で重要」との指摘があり、農水省は「情報共有に関しては当方でも懸念しており、OIEにも意見していきたい」と回答した。

自家消費用の鳥が家きんの定義から外れたことに関しては、「自家消費用の家きんこそが人への感染の大きなリスクになっているのでは」との意見が出され、農水省からは「裏庭養鶏のうち、家きんと直接的・間接的な接触がないものだけを『家きん』の定義から外すとの要件を課した上で、自家消費用の家きんから農場への感染拡大のリスクは極めて小さいことから、多大な経済的・労力的な負担を要するモニタリングを必須とはしない」OIEの考えを説明。一方で、「各国が人への感染等のリスクに応じたモニタリングを行なうことを否定するものではなく、また、病原性の変化等があれば直ちに通報する必要がある」ことも説明した。

さらに、今回のLPAIに関する部分のコード変更が行なわれた場合、「日本の家畜伝染病予防法におけるLPAIの扱いに変更があるのか、またそれに関してLPAIが発生した場合にWTOのSPS(衛生と植物検疫のための措置)協定上の措置はどうなるのか」との質問や、「今回の改定が輸入国側に不利な状況になるのではないか」との懸念については、農水省は「日本の家畜伝染病予防法におけるLPAIの扱いに変更はなく、SPS協定上においても、自国の適切なレベルの保護措置を守っていくために科学的根拠に基づく必要な措置をとることも可能である」とした。

このほか、「自家消費用の鳥が家きんの定義から外れたら、疾病発生時に防疫措置によるコントロールの対象にはならないのか」との質問に農水省は、「OIEコード上は自家消費用の鳥におけるHPAIの発生は清浄ステータスに影響しないものの、防疫措置については各国で自国の基準で対応することに制限はない」と回答した。

OIEリスト疾病については、日本の家伝法に含まれる家きんコレラについて、OIEのリスト疾病に含まれていない理由についても質問があり、農水省は「家きんコレラについては、以前はリストに含まれていたが、専門家の意見や最新の科学的知見を踏まえ、2011年のOIE総会における各国の決議の結果、リストから外れた」と回答し、OIEのリスト疾病は各国における管理対象疾病のリストとは必ずしも一致しない旨を説明した。

採卵鶏のアニマルウェルフェア

採卵鶏生産システムにおけるアニマルウェルフェアについては、OIEコード一次案では、砂浴び、ついばみ、営巣の区域、止まり木を「設ける場合は」となっていたが、二次案で「設ける場合は」が削除され、設置が必須となるような表現となったことから、日本などから、敷料が適切に管理されない場合は寄生虫や疾病の増加をもたらすこと、営巣の区域や止まり木を設置した場合でも、尻つつき等を増加させない飼養管理手法をまずは確立すべきことから、設置を必須とするのは適切でない――とのコメントが提出され、三次案では、すべての生産システムに適用可能とするため、砂浴び、ついばみ、営巣の区域、止まり木への「アクセスは望ましい。提供される場合は…」に修正。

四次案では大きな修正はなく、日本が、結果に基づく測定指標に「疾病、感染および寄生の発生」の追加を提案し反映されたことを報告。採卵鶏のOIE基準は2020年5月の総会で採択予定であったが、2021年5月に延期となったと説明した。

協議会メンバーからは、「アニマルウェルフェアは動物の行動の観点から考えるもので、ひび卵や汚染卵といった卵の生産性の観点から考えることは視点が異なるのでは」との意見があり、農水省は「OIEコードではアニマルウェルフェアに配慮した飼養管理の有無により影響を受ける行動を含めた様々な要素を指標として定めており、その中にひび卵や汚染卵といった卵の状態が示されている」ことを回答した。

このほか、メンバーから「止まり木を導入した鶏舎で、止まり木上で産卵し、ひび卵となっている」との事例紹介や、「OIEコードは十分な柔軟性を確保する必要がある」との意見があった。

OIEコード委員会の今後の活動や、新型コロナウイルス感染症に対するOIEの取り組みなどについては、特に意見や質問はなかった。