エロワ事務局長来日で記念シンポジウム OIEアジア太平洋地域事務所
国際獣疫事務局(OIE)アジア太平洋地域事務所(釘田博文代表)は3月24日、同局本部(フランス・パリ)のモニーク・エロワ事務局長が来日したことから、同事務所がある東京都文京区の東京大学弥生キャンパス内の弥生講堂一条ホールで記念シンポジウムを開き、獣医療や行政、畜産団体の関係者ら約200人が出席した。
釘田代表と、農林水産省消費・安全局の今城健晴局長のあいさつに次いで、エロワ事務局長が基調講演し、(公社)日本獣医師会の藏内勇夫会長が「日本の獣医師・獣医学教育の現状と課題」、消費・安全局動物衛生課の熊谷法夫課長が「動物疾病コントロールと貿易」、同局畜水産安全管理課の磯貝保課長(代理・林政彦調査官)が「薬剤耐性対策」、東京大学大学院農学生命科学研究科「食の安全研究センター」(OIEコラボレーティングセンター)の関崎勉センター長が「食品安全と公衆衛生学」について講演した。
エロワ事務局長は、日本の獣医療レベルをきわめて高く評価したほか、1924年のOIE設立以降の沿革や組織概要、動物衛生に関する諸課題に触れ、①世界人口の18%以上に当たる13億人が畜産物の生産・加工・販売で生活している②6年前の牛疫の撲滅はOIEとFAOの協力に加え、農業団体や農家の努力なしには達成できなかった③人口増やグローバル化、気候変動により我々は、食料不足や病原体の移動など未曾有の課題に直面している④抗生物質が効かなくなりつつある――ことなどを指摘。
これらの問題への対応について、①途上国の畜産業や獣医療への支援②OIEの『WAHIS』などの疾病モニタリング③人と動物・環境の健康維持に関係者が連携して取り組む「ワン・ヘルス」の考え方と〝世界公共財〟の概念の共有④抗菌剤の慎重使用の確保⑤治療から予防への移行⑥官民の一層の協力――などが重要と強調した。
藏内氏は、ワン・ヘルスの考え方の下、日本獣医師会と日本医師会の連携が都道府県レベルで進んでいることなどを紹介し、「人獣共通感染症の脅威が迫る中、医師と獣医師の連携を通じて安全・安心な社会が構築できると考えている」などと述べた。
熊谷氏は、日本の獣医行政の概要や検疫状況などを説明。鳥インフルエンザ(AI)対策については、家畜保健衛生所や農家の取り組みなどに触れ、「農家の方の早期通報の下で対応していることも、大変心強い」としたほか、農家補償について「制度を充実させ、AIと口蹄疫で早期通報した農家の方には、満額の補償が行なわれるシステムになっている」と説明した。2020年の東京五輪に向けては、衛生レベルが高い競技用馬は、衛生管理されたバブル(泡)状の清浄区とみなした輸出国の検疫施設と日本の馬事公苑などの間の移動を認める「バブル・トゥ・バブル」の基準の適用を進めていることを紹介した。
林氏は、抗菌性飼料添加物について、人の健康への影響が無視できないと評価された飼料添加物2成分の指定が17年度に取り消される予定の一方で、人の健康への影響が無視できると評価された23成分は、飼料安全法などの基準の下であれば成長促進目的で使用できることなどを報告した。
関崎氏は、豚レンサ球菌の研究成果を解説。人への感染例は国内で144例確認され、養豚業者や食肉業者のほか、焼肉店員が誤って串を手に刺して感染し死亡した事例や、手に切り傷を負った主婦が豚の内臓から感染し、耳がほとんど聞こえなくなった事例がある。同菌は豚の唾液から100%、内臓から60%前後の割合で検出されるため、汚染源は豚と考えられるが、市販の鶏ひき肉からも検出されたとし、汚染ルートについて「川下の加工場や店舗のバックヤードで、豚レバーと鶏肉などとの交差汚染が起きている」と推定した。
会場からは、ペット医療への対策を強化する必要性について質問が出され、エロワ氏は「AMR(薬剤耐性)の問題はペットも関与しており、開業獣医らも役割を果たすべき」、林氏は「ペットのAMRについては、実態が分かっていないこともあり、今後ワン・ヘルスの枠組みの中で調査していきたい」とした。
エロワ事務局長は日本滞在中、農水省や外務省、厚労省なども訪問し、国会議員とも意見交換した。
【日本の専門家や行政担当者も講演した】