終息が待たれるHPAI

防疫の三原則、飼養衛生理基準の徹底で乗り切ろう

昨年11月以降、国内で17県(香川県、福岡県、兵庫県、宮崎県、奈良県、広島県、大分県、和歌山県、岡山県、滋賀県、高知県、徳島県、千葉県、岐阜県、鹿児島県、富山県、茨城県)、51事例のH5N8亜型の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が発生し、疫学関連農場の分と合わせると過去最大となる約961万羽の採卵鶏(育雛・育成鶏含む)、肉用鶏、種鶏、アヒルが家畜伝染病予防法に基づき殺処分された。

ウイルス感染症は侵入→感染→発症(発病)の段階を踏んでいくが、各段階には必要なウイルス量があると考えられるため、侵入ウイルスが感染量以下であれば感染は起こらないとされている。また感染しても発症量以下であれば発症はしない。従って、仮にウイルスが侵入してきても、感染量以下に抑える対策ができているかどうかが重要になる。

鶏病研究会が昨年11月16日にオンラインで開催した秋季全国鶏病技術研修会で、高病原性鳥インフルエンザについて講演した鳥取大学の山口剛士教授も「今後の発生防止における重要な予防策は」との質問に「飼養衛生管理基準の順守、これにつきます。きわめて地味ですがこれを日常的に地道に履行する以外に方法はない」と強調している。

その上で、ウイルスを家きん舎に入れないポイントについて「特に重要なのは衛生管理区域内での衣服や靴、手袋などの交換、手指消毒、踏み込み消毒層など消毒液の交換や適切な濃度調整、野生動物の侵入を防止するための防鳥ネットの確認、壁の穴や隙間の修繕、できれば集卵用バーコンベア出入り口の夜間の閉鎖、除ふんベルトを介した家きん舎内への侵入防止対策、死鳥や廃棄卵の適切な管理など」を挙げている。【鶏病研究会報第56巻第4号】

毎年、ツルが約1万7000羽、カモはその数倍飛来し、今年も糞便と「ねぐら」の水からH5N8亜型のHPAIウイルスが検出されている鹿児島県出水市で養鶏を営んでいるマルイ農協の岡田一弘組合長は、昨年11月17日の日本養鶏協会の鳥インフルエンザ問題対策委員会(日鶏協ニュース12月号)の中で「環境改善運動(農場美化と防疫徹底)と称して年3回、30のチェック項目を定めて農場の点数付けをして、改善点が直るまで徹底してやっている。また、鶏舎の金網の隙間は2センチメートル以内とする対策を、秋口からは特に徹底して穴が開いたら必ず補修して塞ぐよう指導している」と説明。同農協では2004年4月に『基本防疫レベル』を作成し、恒常的にAIや鶏病対策に取り組むとともに、アジアでAIが発生した場合(レベル1)、国内で低・高病原性AI発生の場合(レベル2)、九州で低・高病原性AI発生の場合(レベル3)、管内でAIが発生の場合(レベル4)に分け、生産部門、輸送部門、処理・加工部門、製造部門、事務部門での対策をリストアップし、同農協グループ一体となった防疫対策を徹底し、発生を防止している。

平成16年にわが国で79年ぶりにHPAIが発生した当時、日本養鶏協会の専務理事を務めた島田英幸氏(獣医師)は、農水省と種々の調整・要請を行ないながら対策に取り組んだ当時を振り返りつつ、今シーズンの発生は「天災半分、人災半分とみるべき」と本紙に指摘している。

ウイルスはいつ、どこから来るか分からないため、「生産者は一種の天災のように考えたい気持ちは理解できるが、発生すると農場の全羽数が法令殺処分となり、経営的にも倒産・廃業を覚悟することにもなり兼ねないため、ある程度の災害対策を事前に行なっているもの。だが、その対策にどこか欠陥または盲点があったのではないか」ということから「再度の大発生を防ぎたいと思ってメールした」とし、欠陥や盲点をなくすためには〝防疫の三原則〟をきちんと抑えた対策が重要だと強調した。

三原則とは感染源対策と、感染経路対策、宿主(鶏)感受性対策で、このうち1つでも完全に防御対策ができていると感染症は発生しない。もし、感染源のウイルスの完全制圧に成功していれば、他の2つが手抜き・弱体でも、該当する感染症は成立しない。同様に他の2つについても、各々に完全な措置が取られていれば残りの2つが手抜き状態でも感染症は成立しない。ただ、現実的には〝完全〟はないため現場の対策が重要で、リスクを各々10分の1に下げれば掛け算で1000分の1のリスクに下げることができる。

加えて「AI防疫上重要なことは、糞便に極めて大量のウイルスが排出されることである。従って感染・発症の鶏の糞便によるウイルス伝播を如何に回避するか」や「飛沫の飛ぶ距離は通常数メートル以下で、クシャミでも10メートル程度である。従って作業員の衣服、器具機材にウイルスが付着することも警戒する必要がある」ことにも注意喚起してほしいとしている。

農水省も各県を通じ、全農場への飼養衛生管理基準の順守状況の点検や、消毒の徹底などを呼びかけている。宮崎県では消石灰に加え、ネズミの殺そ剤の配布している。

HPAIの発生は、2月25日の宮崎県都城市の肉用鶏農場を最後に報告されていない(3月10日現在)が、少なくとも4月一杯は警戒を緩めることなく、防疫の三原則に基づく対策を徹底して乗り切っていかなければならない。