東京オリンピックと交通対策(中)
通行規制エリア、う回エリア示す
選手と大会関係者、VIPの移動
オリンピック・パラリンピックの開会式と閉会式の当日(合計4日間)には、世界各国のVIPが出席するため、昨年の即位の礼のような交通規制が予想されている。内容は外務省と警察の専管事項で、空港と都心を結ぶ高速道路などで突発的に規制がかかる可能性がある。
全体的な混雑度については、オリンピックは大変なものになるとみられているが、お盆の後に始まるパラリンピックは観客数・選手数ともオリンピックの半分以下で、多少落ち着くのではないかとの見方が多いようだ。
オリンピックについて、選手約1万1000人は、大会前には全国に分散する練習会場を利用できるが、大会期間中は主に中央区晴海の選手村に滞在する。さらに競技団体関係者や、メディア関係者約2万5000人が選手村や各競技会場周辺のホテルに宿泊するため、都内のホテルは既に予約で満杯とされている。これら大会関係者は、原則として組織委が調達するバス約2000台とライトバン・乗用車約3500~4000台を使って、各会場や宿泊施設・空港間を毎日移動する。
合計約5500~6000台の車両が、東京ベイゾーンの築地場外市場跡地と、若洲ゴルフリンクス近くの輸送デポ(車両基地)から、定められた「大会ルート」(Olympic Route Network,ORN=関係者輸送ルート、主に高速道路)を1日に何度もピストン輸送するため、1日当たりの交通量は5~6万台分に相当し、夏場の首都高の利用台数(100~110万台)が平均で5~6%増える計算となっている。ただし、大会関係車両は大会ルート以外は通らないため、都などは物流事業者などに、大会ルート以外の積極的な利用を呼びかけている。
主な大会ルートは、首都高都心環状線・新宿線・渋谷線・深川線・台場線・湾岸線など。ルート上には、春先から桜色の路面表示や看板などが設置される。さらに都心部の会場近くの一部一般道の大会ルート上には、7月中旬ごろから、選手や関係者を会場入りさせるための関係車両の優先レーン、オリンピックスタジアム外周の外苑東通りの短い区間と、選手村と有明会場をつなぐ環状第二号線の一部には関係車両の専用レーンが設置され、通行はできるが車道が実質的に1車線少なくなる。
観客の移動
オリンピックの予想観客数は約780万人。昨年のラグビーワールドカップは延べ約170万人で、会場は全国に分散していたのに対し、オリンピックでは一般観光客の多くが都内ではなく千葉、埼玉、神奈川などの隣県に宿泊することを余儀なくされ、朝のラッシュ時を含む様々な時間帯に公共交通機関で都内の会場に向かう見通しとなっている。1日当たりの最大利用客数は約80万人で、首都圏の鉄道利用客(約800万人)が平均で約10%増えると試算されている。
通行規制エリアと「う回路」の設定
各会場の外周には、セキュリティーチェックを受けたオリンピック関係者や観客以外は入れない「セキュアペリメーター」(perimeterは境界線の意)という進入禁止エリアが設定され、外周には高さ3メートルの壁などが設けられる。その周囲の一部道路では、準備などのため6月など大会のかなり前から一般車両が通過できなくなる通行規制エリアが出てくる。この区間内は原則、居住者や道沿いの建物などに用事がある車両は進入できるが、通過(通り抜け)ができなくなる。
一部の会場では、用事がない通過車両はこの通行規制エリアを避けるよう誘導する「トラフィックペリメーター」(う回エリア)が設定される。
都内の主要う回エリアは①オリンピックスタジアムと東京体育館周辺=新宿通り~外堀通り~明治通りを使って会場と赤坂御用地、新宿御苑の外側を通るよう誘導②日本武道館と東京国際フォーラム周辺=靖国通り~内堀通り~外堀通り~晴海通りなどを使い、東京駅丸の内口から皇居、北の丸公園の外側を通行するよう誘導③国技館周辺=蔵前橋通り~三つ目通り~京葉道路の内側を通らないよう誘導④馬事公苑周辺⑤東京スタジアムと武蔵野の森公園周辺=スタジアム前の甲州街道に合流する車両を抑えるため、京王線より南側のしみず下通りの通行などを誘導⑥台場・有明地区=地区全体をう回エリアに設定し、国道357号線で通過するよう誘導⑦大井ホッケー競技場(競技は7月25日~8月7日)=会場前の国道357号線や競馬場通りの混雑を避けるため、手前の環七通りや海岸通りなどの交差点でう回ルートを誘導⑧東京アクアティクスセンター・夢の島公園アーチェリー場=会場外周の三つ目通り、明治通りに入らないよう誘導⑨葛西臨海公園のカヌー・スラロームセンター周辺⑩選手村周辺=大会ルートとなる築地輸送デポ~選手村~有明会場を結ぶ環状第二号線のうち、築地デポから豊洲大橋を渡るまでの区間を通行規制エリアとし、一般通過車両の通行を禁止。晴海通りでは海側の道に入らないよう誘導(勝どき陸橋交差点から築地方面へは通行可、また市場関係車両は時間を限定して豊洲大橋~月島警察署交差点を右折するなどのルートは通行可とする)--などが予定されている。
都外の主要う回エリアは、①横浜スタジアム周辺②横浜国際総合競技場周辺③幕張メッセ周辺④千葉県・一宮市釣ヶ崎海岸サーフィンビーチ周辺⑤霞ヶ関カンツリー倶楽部周辺⑥陸上自衛隊朝霞訓練場周辺⑦さいたまスーパーアリーナ周辺⑧埼玉スタジアム2002周辺――など。
これらの通行規制について関係事務局は「現時点で示されているものは確定している。追加はありうるが、現状より緩くなることはない」としている。
物流現場への影響必至
ただ、組織委や都が示しているこれらの交通規制については、物流の現場や市場関係者から「リードタイムは間違いなく長くなり、輸送費が上がる可能性も出てくる」「晴海通り周辺は大渋滞するだろう」「規制の期間が長くて困る」「よく考えて出した規制なのか」「現場を知らない人間が決めた規制では、実際に運用した際に非常に混乱する可能性がある」「平時でもアクセスが悪かったり混雑したりするのに…」「通行できるのかできないのか、非常に分かりにくい」などの厳しい声が上がっている。
規制内容は『今後変更がありうる』としていることについても、「確定しないと対策の決めようがない」「お客様にも説明し、了解を得なければならないため、規制内容を早く明確にして、川下の業界や一般消費者にもしっかり周知してほしい」などの要望が聞かれている。
大会運営事務局や都などは、各種規制を6月中旬などから9月まで実施するとしているが、事業者の懸念を払しょくするとともに、物流の実情に応じた柔軟な運用や、一般の人にも分かりやすい形で、より広く周知することなどが求められていると言えそうだ。