中嶋製作所が信州大学農学部に養鶏研究棟を寄贈

肉用鶏のAW飼育管理技術などで共同研究

「ナカマチック養鶏研究棟」の落成を記念してテープカット

「ナカマチック養鶏研究棟」の外観

信州大学農学部は7月3日、長野県南箕輪村の伊那キャンパス(食と緑の科学資料館・ゆりの木)で「ナカマチック養鶏研究棟」の落成式を行なった。

「ナカマチック養鶏研究棟」は、今年で創業100周年を迎えた畜産用機器メーカーの㈱中嶋製作所(中嶋君忠社長―本社・長野市篠ノ井会33)が、以前からアニマルウェルフェア(AW)に対応した肉用鶏の生産システムなどの分野で共同研究を進めている信州大学農学部に寄贈したもの。

落成式は本来、今年3月に行なう予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響により7月にずれ込んだ。

主催者を代表して、信州大学の藤田智之農学部長は「農学部内に新たな共同研究施設として『ナカマチック養鶏研究棟』を竣工・寄贈していただけることになった。落成式を迎えられたのも、ひとえに中嶋製作所の皆様のご支援の賜物と感謝している。ご臨席いただいている中嶋社長をはじめご支援ご協力をいただいた関係者の皆様、施工を執り行なっていただいたサンポートリーハウジングシステムの皆様に心からお礼を申し上げる。

畜産用機器を製造されている中嶋製作所とは、家畜福祉、動物福祉とも言われるAWに対応した新しい肉用鶏の生産システムと、そのシステムを支える鶏舎構造についてこれまで共同研究を進めてきた。この施設を用いてAWに配慮した肉用鶏の飼育方式と、それによる疾病リスク、さらには生産性の向上などの研究成果に、農学部としても期待している。

今後、この施設を有効に活用させていただき、中嶋製作所との共同研究の発展、さらには竹田謙一准教授が中心となって進めている次世代型家畜生産技術の研究開発プラットフォームへの展開につながることが期待される。今後とも皆様の変わらぬご指導ご鞭撻をお願い申し上げる」などとあいさつした。

中嶋製作所の中嶋君忠社長から藤田農学部長に「ナカマチック養鶏研究棟」の目録、藤田農学部長から中嶋社長に感謝状が贈られた。

中嶋社長は「中嶋製作所は今年で100歳を迎える企業になった。その記念すべき年に養鶏研究棟を完成させることができたことは、お客様をはじめとした関係者皆様のご支援、ご助力の賜物であり、感謝に堪えないところである。

過去には会社の敷地に鶏舎を新築し、実験棟として実際に鶏を飼育しながら養鶏用機器の開発を行なってきたが、鳥インフルエンザなどの防疫上の観点から、そのようなことが不可能となった。折しも信州大学農学部より寄付であれば養鶏研究棟の建築が可能な土地を提供していただけることになり、昨年7月に着工した。

新型コロナウイルスまん延の影響で、本来3月の落成式を予定していたが、約4か月遅れての落成式となった。養鶏研究棟では、信州大学農学部動物行動管理学研究室と共同で肉用鶏の飼育試験を行ない、将来においても持続可能な日本の畜産を目指す目的で活用していただけるよう祈念している。最近ではAWやGAPの重要性がささやかれているが、鶏にやさしい、人にやさしい、環境にやさしいシステムづくりをお願いしたいと思っている。

最後にナカマチック養鶏研究棟の建設にご尽力をいただいたサンポートリーハウジングシステム、新光商事、中川建設、動物行動管理学研究室の皆様に感謝を申し上げる」と述べた。

謝辞に立った信州大学の中村宗一郎副学長は「私が知る限り、信州大学でこのような多額の寄付と研究棟を寄贈していただいた事例は数えるほどしかなく、農学部では初めての事例だと思う。中嶋製作所との共同研究だけでなく、畜産県の長野県にふさわしい養鶏関係の研究を大きく発展させ、その拠点にしていただきたい。

政府の総合科学技術・イノベーション会議では来年からの5か年計画である第6期科学技術基本計画を立てており、その中で重点的に強化すべき研究分野として、AI技術、バイオテクノロジー、量子技術、環境エネルギー、安全・安心、農業の6項目を挙げている。AWは安全・安心に相当すると思うし、農業は非常に重要だという認識のもとに基本計画を策定中である。

寄贈していただいた養鶏研究棟を軸に新しい価値を創造し、長野県発祥の実証研究拠点として大きく展開していきたいと思っており、今後も変わらぬご支援を賜りたい」と述べた。

信州大学農学部動物行動管理学研究室の竹田謙一准教授は「この養鶏研究棟での主な研究は、AWを一つの大きなキーワードに掲げている。AWについては1990年代より世界各地で研究が進められているが、特に東京オリンピック・パラリンピックの開催をきっかけに、日本国内では食材調達という中でAWに配慮した畜産物をどのように供給するか、生産部門では大きな関心事となってきた。しかしながら、消費者ニーズといったところでは、まだまだ十分ではない点が多々あるが、世界的な潮流の中で外食産業や大手食品企業などからAWについての問い合わせが近年、非常に多く寄せられている。

そういった中で、国内のAWに基づいた生産基盤がうまくいかなければ、おそらく輸入品に取って代わられると予想される。今回寄贈していただいた養鶏研究棟での研究成果を、何とか現場で普及できるような技術までもっていき、AWに配慮した畜産物を国内で十分に供給できるような生産体系を目指すべく、中嶋製作所の皆様と共同研究を進めていきたい。

具体的な研究テーマについては、それぞれ抱えているものはあるが、信州から全国に向けて、また世界に向けてAWに配慮した肉用鶏の飼育技術を展開し、情報発信していきたい」などと抱負を述べた。

中嶋製作所の中嶋社長と窪田忠志取締役技術部長、信州大学の中村副学長と藤田農学部長によるテープカットを行ない、報道陣との質疑応答の後、「ナカマチック養鶏研究棟」を内覧して落成式を終えた。

AWの考え方を取り入れ飼育技術の開発を目指す

メッシュ状の床材を採用した飼育室

防じんフィルターを設置した飼育室も

「ナカマチック養鶏研究棟」は間口7.2メートル、長さ29メートルの約210平方メートルの建物で、肉用鶏を飼育するための給餌機(ブルーホッパー)、給水機(ウォーターピック)、空調関係の設備などを導入している。

建物内にある5つの飼育室はウインドレスで、4つは最大100羽、1つは同300羽の合計700羽の肉用鶏を飼育できるが、「日本の一般的な飼育密度は高いという海外からの批判もあるため、AWに考慮しながら2割減の飼育羽数を想定している」(竹田准教授)とのこと。

床面にメッシュ状の穴が開いている床材を採用した飼育室もある。中嶋製作所と信州大学の共同研究では、メッシュ状の穴から落ちた鶏糞を流水で定期的に鶏舎外に排出し、AW評価にも用いられる趾蹠皮膚炎(FPD)の発生率の改善や、鶏舎内のアンモニア濃度の低下などの課題解決に取り組むという。

また、周辺環境にもやさしい飼育技術を確立するため、飼育室の1つに防じんフィルターを設置して飼育試験を行なうほか、鶏舎外に排出した鶏糞は浄化槽で抜気処理して好気性発酵させ、環境基準をクリアした上澄みを公共ベースに流し、残った固形物は他の畜糞と混ぜ合わせて堆肥化するとのこと。

今後は、肉用鶏では事例が少ない鶏舎内への止まり木の設置や、飼育期間に一定の暗期を設けることなども視野に入れており、AWの考え方を日本の肉用鶏のコマーシャル生産に導入する一方で、生産性も担保できるような飼育技術の開発を目指す。