防疫指針や飼養衛生管理基準の見直しも 令和3年度家畜衛生主任者会議
HPAI発生の11農場で手当金減額
農林水産省は、4月22日にオンライン形式で令和3年度家畜衛生主任者会議を開き、都道府県の家畜衛生担当者らに今年度の家畜衛生に関する施策などを説明した。
冒頭、野上浩太郎農林水産大臣があいさつの中で飼養衛生管理基準の見直しなどについて言及。翌日の閣議後の記者会見では「今シーズンの高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生事例では複数の大規模農場での発生や、限られた地域での続発事例が確認された。豚熱についてはワクチン接種農場でも発生が確認されている。発生予防の徹底とまん延防止措置の迅速化を図るために昨今の発生事例と現行の規定についての課題や問題点を明らかにし、それを検証する必要があると考え、事務方にその旨を指示するとともに、必要であれば防疫指針や飼養衛生管理基準を見直すことにした。
HPAI52事例のうち39事例、昨年9月以降の豚熱9事例のうち6事例で、各県から自衛隊への災害派遣が要請された。疾病発生時には防衛省を含む関係省庁と連携して対応しており、防衛省からは迅速かつ円滑に作業を進めるためにも、県の防疫計画や体制の充実・改善が必要であるとの意見をいただいた。農林水産省として自衛隊の協力を得るためにも、都道府県には家畜衛生部局や関係団体を中心に、全庁的・全県的な防疫体制を構築することが重要であると考えている。
防疫指針では都道府県、生産者団体の関係者が一体となって、防疫対応を実行するために実践的な防疫演習を実施することにしているが、特に家きんでは大規模農場でのHPAI発生を受けて昨年12月には各都道府県で緊急的に机上防疫演習を実施し、防疫体制について適切に見直した。都道府県には、自らの都道府県内の畜産業は自分たちで守るという強い覚悟のもとで、引き続き、家畜伝染病のまん延防止に万全を期していただきたい」などと述べた。
会議では、消費・安全局動物衛生課の担当者から、今シーズンのHPAI発生状況、豚熱のワクチン接種後の発生状況、海外での家畜伝染病の発生状況などについて報告された。
今シーズンのHPAIの発生状況については「18県・52事例が発生し、殺処分羽数は過去最大の約987万羽。HPAIによる平成16年以降の累計殺処分羽数、約441万羽の倍以上の羽数が今シーズンだけで殺処分された。全国の3分の1を超える県で発生し、香川県と宮崎県、千葉県では県内で続発したことが大きな特徴で、千葉県では100万羽以上を含めた大規模農場での発生が続いた。
発生県では大変な思いをしながら防疫作業を実施し、未発生県でも他人事ではない状況で、全都道府県で警戒感が高かったシーズンだったと思う。多くの事例がある年ほど大きな教訓があるため、10月以降の新たなシーズンに向けてどのようなことができるかをしっかり考えてほしい」と報告した。
HPAI発生農場での疫学調査結果を踏まえた飼養衛生管理状況については「野生動物対策で鶏舎の壁・天井などに隙間があったのが40事例、隙間はないが鶏舎内にネズミなどがいた痕跡があったのが9事例。鶏舎の出入り口で手指消毒・手袋交換が不十分だったのが28事例、長靴の交換が不十分だったのが19事例であった。
農場内の家きんを守るには、農場主の日頃の行動や施設のハード面・ソフト面の整備にかかっており、従業員一人ひとりが消毒などを実施することも重要である。令和4年2月には農場ごとの飼養衛生管理マニュアル作成が施行されるため、それに向けて具体的な対策や従業員への周知、マニュアル通りに実施したことの記録などのプロセスも含めてしっかり指導してほしい」などとした。
【高病原性鳥インフルエンザ発生農場における疫学調査結果を踏まえた飼養衛生管理状況】
HPAI手当金の減額事例については「52事例のうち、現在までに11事例で手当金が減額され、その多くは早期通報ができなかったことや飼養衛生管理基準の順守に不備があったことが原因となっている。飼養衛生管理基準を一つひとつ順守していくことが必要になる」などと強調した。
海外でのHPAI発生状況については「今シーズンはユーラシア大陸の東西で同時発生しており、シベリアの営巣地から野鳥によりHPAIウイルスが各国に持ち込まれたと考えられる。フランスでは489件、韓国では88件の発生が報告されている」などとした。
動物衛生課の石川清康課長は「昨年度は家畜伝染病予防法の改正に伴い特定家畜伝染病防疫指針や飼養衛生管理基準の改正、飼養衛生管理指導等指針の策定を進めた。近隣諸国の家畜衛生を巡る情勢は依然として大変厳しく、疾病の侵入リスクは高止まりしている。このためこの1年は、都道府県や関係団体と緊密な連携のもとで、改正家畜伝染病予防法を現場に確実に浸透・定着させ、わが国の防疫水準をさらに高めていきたい。
また、豚熱やHPAIの発生に社会的な注目が集まりがちであるが、畜産経営に影響を与える慢性疾病対策や、地道で継続的な取り組みが求められる飼養衛生管理などについても留意しながら進めたい」などと述べた。
畜水産安全管理課の郷達也課長は「畜産物の安全を確保するためには生産から加工、流通、消費までの各段階で、リスクの程度を把握したうえで管理措置を適切に実施していくことが大切である。畜水産安全管理課では有害化学物質や微生物の実態調査を実施し、飼料の安全基準、動物用医薬品や飼料添加物の使用基準などのリスク管理措置を適宜作成・見直しを進めている。また、国内外の新たな知見や国際機関でのリスク評価の状況を把握するとともに、規制状況に関する情報も収集し、飼料中の有害物質に関する分析方法の開発や、新技術を用いた動物用医薬品の実用化の促進にも取り組んでいる。
生産現場からのニーズが高い動物用医薬品や医療機器を早期に使用できるようにすることは、我々の大きな使命であるため、米国やヨーロッパとの国際調和を図りつつ、動物用医薬品検査所とともに承認審査の迅速化にこれまでも取り組んできた。今後とも安全性を確保しつつ、審査のさらなる迅速化に務めたい」などと述べた。
畜水産安全管理課の担当者からは、獣医師と獣医療の提供、薬剤耐性(AMR)対策、飼料の安全性確保などについて報告された。
このほか動物検疫所、農研機構動物衛生研究部門、動物医薬品検査所、(独)農林水産消費安全技術センター、経営局保険監理官の担当者から、それぞれの施策が報告された。