日本の実状に適したAW(アニマルウェルフェア)基準に!

日本養鶏協会と国際養鶏協議会 吉川農水大臣へ要望

世界の動物衛生の向上を目的とする国際機関の国際獣疫事務局(OIE)は、OIE陸生動物コードに追加する採卵鶏のアニマルウェルフェア(AW、日本語定義=快適性に配慮した家畜の飼養管理)基準の策定を進めているが、11月22日にコード委員会の二次案を加盟国に示し、意見を求めた。こうした国際的な動きに対して、(一社)日本養鶏協会と(一社)国際養鶏協議会は、国内の採卵養鶏の飼養方法にも大きな影響を与えかねないとして、合同で「AW対策協議会」の立ち上げを決めるとともに、11月12日には吉川貴盛農林水産大臣に、適切な対応を求める要望書を提出した。

わが国のAW基準については、(公社)畜産技術協会が、国際的なAWの理念となっている5つの自由(①飢餓と渇きからの自由②苦痛、障害または疾病からの自由③恐怖および苦悩からの自由④物理的、熱の不快さからの自由⑤正常な行動ができる自由)を基に、日々の家畜の観察や記録、家畜のていねいな取り扱い、良質な飼料や水の給与など、家畜の快適性に配慮しながら、愛情を持った飼養管理を行なう必要性を指摘した「アニマルウェルフェア(AW)の考え方に対応した飼養管理指針(AW指針)」を、畜種ごと(肉用牛やブロイラー、乳用牛、養豚、採卵鶏)に定めている。

この指針は、OIEコードが改訂された畜種から順次改訂しており、採卵鶏のOIE基準が示されれば採卵鶏の指針も改訂される予定。

日本養鶏協会と国際養鶏協議会は、OIEが検討している採卵鶏のAW基準の二次案がコード委員会から示され、加盟国の了承が得られてOIE総会で採択されると、国内の採卵養鶏の飼養方法にも大きな影響を与えかねないとして、合同で「AW対策協議会」の立ち上げを決め、11月12日に吉川貴盛農林水産大臣にも適切な対応を求める要望書を提出したもの。

要望書では、今後示されるOIEのAW基準案に、例えば「巣箱」と「止まり木」の設置を勧告する内容が追加される可能性もあるとして、仮にこの基準が採択されると「日本の鶏卵生産者に大きな打撃を与えることになる。国内の95%以上の採卵養鶏場は『従来型ケージ飼養』で、巣箱や止まり木の設置は現実的に不可能」とし、日本の現状を踏まえたOIE改訂案になるよう、特に次の4点を理解したうえで対応してほしいとしている。

1、鶏卵は国民の動物性たんぱく源食材として、安全・安価・安定供給を最大限考慮した対応が必要。

2、鶏は清潔で、安全な環境下で健康に飼育されることが重要。

3、欧州のAW基準が、家畜である鶏にとって苦痛の排除につながっているかは科学的に証明されたと言えず、むしろ従来型ケージ飼養が、鶏の「本来の欲求」や「苦痛の排除」を科学的に研究して、現状に至ったもので、結果として高い産卵率や生存率となっていると考えるべき。

4、OIEの採卵鶏のAW基準は次の点が考慮されるべき=①鶏卵は人間社会に必要不可欠であり、安全・安価・安定供給に影響が出てはならない②衛生的な管理による鶏の健康が何より優先されるべきである③AWへの対応は、わが国の気候風土、および経済的観点から十分に考慮され、わが国に適したAW基準が検討されるべきである。

養鶏産業が成り立ち、安全・良質な卵が安定的に提供できる「基準」を

解 説

養鶏産業は、家畜としての採卵鶏の長年にわたる改良の恩恵を受け、良質なたんぱく質に富んだ安価な卵を供給することで、国民の健康増進に貢献し、地域の雇用も創出して発展してきた。特に、採卵鶏の育種改良は、卵1キロ当たりの飼料コストが低く、優れた卵質を持つ販売可能な卵を多産することを目標に、試行錯誤を繰り返すことで進んできたもので、今後も着実に改良が進んでいくとみられる。

改良された採卵鶏に、その能力を最大限に発揮してもらうためには、良質な飼料や水の給与だけでなく、鶏にとってストレスがない最適な環境を与えなければ、鶏はへい死が多くなり、産卵率も落ち、場合によっては、産卵をストップしてしまう。

現在主流となっているケージ飼養の小さなコロニーは、鶏群の中の順位付けで、強い鶏が弱い鶏をつつく「尻つつき」を減少させ、どの鶏にも飼料や水が供給されるようになっている。また、鶏を糞や土から分離したことによって病気の回避と衛生的な卵の生産ができるなど、アニマルウェルフェア(AW)の面でも問題をクリアしながら発展してきた。

このような鶏の改良と、環境を清潔かつ快適にコントロールした鶏舎、自動化・省力化が進んだ飼養システムの導入によって、生産コストを抑制し、安全で衛生的な卵を安定供給できるようになったといえる。

欧州を中心としたAWの動きは、国や地域によって宗教・文化、気候風土が異なることから、必ずしも世界共通のものとはなっていない。加えて、世界の動物愛護団体の中には、菜食主義者(ベジタリアン)や、あらゆる動物性食品を拒否する完全菜食主義者(ヴィーガン)、さらには畜産そのものを認めない人がいて、それを他者に強要したり、中には暴力的な行動に及ぶこともあり、状況を一層複雑にしている。

検討されているOIE基準案は、基本的には飼養方式を規定するものではなく、鶏の状態に注目した指標の「アウトカムベース」で策定が進められているといわれているが、日本の特に夏の高温多湿な気候風土に対応し、消費者が求める安全・安価・良質な卵が安定的に供給できるとともに、OIE加盟182か国・地域を含む多くの国で人々の食や暮らしを支える養鶏産業が成り立つAW基準ができることを期待したい。