EU諸国 ケージ(エンリッチド)比率は年々低下 IECの2019年各国データ(下)

世界全体ではケージ飼養が多数

前号に続き、国際鶏卵委員会(IEC)加盟各国から報告された2019年のデータなどを基に、本紙が集計した各国の鶏卵の農家販売価格と小売価格、採卵鶏飼養羽数と鶏卵生産量、鶏卵自給率、飼養システム、卵殻色割合などを紹介する。今回から、各国から報告されているひなえ付け羽数と農場数の数値も表に加えた。

農家販売価格と小売価格

各国のレポーターが報告したケージ卵1ダース当たりの平均的な農家(農場)販売価格と小売価格を、小売価格が高い順にグラフ化したものが図【主要国の鶏卵農家販売価格と小売価格】

農家販売価格と小売価格の差が大きいほど、流通マージンの割合が高いことになる。

卵の価格が最も高いのはスイス。同国はケージ飼養を禁止しているため平飼い卵の価格となるが、小売価格は農家販売価格の2.15倍となっている。同様に、イタリアは4.14倍、デンマークは4.08倍、オランダは3.18倍、フィンランドは3.38倍、キプロスは2.00倍、アイルランドは2.76倍、日本は1.93倍、スペインは2.68倍、カナダは1.25倍、米国は2.41倍、ロシアは1.26倍、中国は1.27倍、インドが1.22倍などとなっている。

このうちインドは、1人当たり鶏卵消費量が2004年の43個から2019年の77個まで右肩上がりで上昇しているが、小売価格も徐々に上昇している。

採卵鶏飼養羽数

各国のレポーターがIECに報告した2019年の採卵鶏飼養羽数が、1億羽以上の国は次の通り。

①中国14.0億羽②米国3.37億羽③インド2.61億羽④メキシコ1.63億羽⑤ロシア1.44億羽⑥日本1.42億羽。

トルコとブラジルも、19年の報告はないが、1億羽を超えているとみられる。1位の中国は前年より1.5億羽増加したが、18年に比べると5000万羽減少している。米国は前年より700万羽強増加し、メキシコは約200万羽、日本も約270万羽増加した。一方、インドは約2800万羽、ロシアは約1600万羽減少した。

鶏卵生産量と自給率、貿易

2019年の鶏卵生産量の上位国は、①中国2500万トン②米国595万トン③インド578万トン④ブラジル294万トン⑤メキシコ285万トン⑥ロシア269万トン⑦日本264万トン。以下、今年は報告がないトルコや、パキスタン、イラン、韓国の年間生産量が100万トンを超えている。

鶏卵の自給率が最も高いのは、オランダの290%。今年は報告がないポーランドやトルコ、ベルギー、マレーシアやタイなども輸出国として知られる。このほか自給率が100%を超え輸出余力がある国は、高い順にスペイン、フィンランド、ポルトガル、ロシア、アルゼンチン、米国、南アフリカ。

自給率が100%未満の国は、低い順にモンゴル、スイス、ドイツ、デンマーク、キプロス、オーストリア、英国、カナダ、アイルランド、日本、イタリア、スロバキア、インド、メキシコなど。これらの国々の鶏卵貿易は輸入超過となっており、周辺国や主要な鶏卵輸出国などから卵を輸入している。このほか、シンガポールや香港、中東の産油国のイラクやアラブ首長国連邦なども、輸入依存度が高い。

中国など自給率が100%の国でも、様々なルートで卵の貿易が行なわれている。自給率が低いドイツも卵の輸出量は多く、EU域内では国境を越えて鶏卵が恒常的に流通している状況が表れている。

飼養システム

採卵鶏の飼養方法は次の3つ。①ケージ(従来型のバタリーケージのほかエンリッチドケージなどを含む)②平飼い(床面での平飼いに加え、多段式のエイビアリーシステムを含む)③放し飼い(鶏が鶏舎外に出られるフリーレンジ。オーガニック飼養を含む)。

EUでは2012年から従来型ケージの使用が禁止されたため、エンリッチドケージや平飼い、放し飼いへの転換を余儀なくされている。EUに加盟していないスイスは1981年に自国でのケージ飼養を禁止した。オーストリアも今年でケージ飼養を禁止するとしていたため、ケージ飼養がほとんどなくなり、ドイツ、オランダ、デンマークなどもケージ飼養の割合が10%前後まで下がっている。

一方、ケージ飼養の割合が50%以上のEU加盟国はスペイン、ポーランド、ポルトガル、ハンガリー、スロバキア、フィンランド、アイルランド、キプロスなど、鶏卵輸出が経済の支えの一つとなっている国が多い。

欧州以外の世界全体では、ケージ飼養が過半を占めている。

米国では流通・外食関連各社が2025年前後を期限として非ケージ卵のみを扱うと宣言し、カリフォルニア、ワシントン、オレゴン、ロードアイランド、ミシガン、コロラドなどの各州でも、2022~26年ごろまでを最終期限としてケージ卵の生産や販売を禁止するといった州法が成立し、これらの需要を満たすには全米の採卵鶏の7割以上をケージフリーシステムで飼養する必要がある見通しとなっている。ただ、莫大な設備更新費用や建設期間が必要なことや、消費者の多くは手頃な卵を求めていることなどから、現実はその通りには進まないとみられている。米国全体の2025年前後のケージ飼養割合については、欧米の関係者の間では、最大でも50%程度と推定されているが、今年8月時点での米国農務省の報告では、ケージフリーシステムの割合は約24%となっている。

有色・白色卵鶏

有色卵鶏が80%以上を占めているのはフランス、スペイン、ポーランド、英国、イタリア、オーストリア、ポルトガル、ハンガリー、スロバキア、アイルランド、キプロス、コロンビア、ペルー、オーストラリア、ニュージーランド。

白色卵鶏が80%以上を占めているのはスウェーデン、デンマーク、フィンランド、インド、トルコ、パキスタン、イラン、カザフスタン、米国、メキシコ、ブラジル、カナダ。

日本は前年と同じ白色卵鶏60%、有色卵鶏40%。

表【主要国の採卵鶏飼養羽数と鶏卵生産量、飼養システム、白色卵鶏・有色卵鶏の羽数割合】