2020年各国データ② IEC報告

飼料価格

IEC加盟各国のうち、ほぼ毎年報告がある国の1トン当たり飼料価格と、鶏卵生産コスト(農場出荷時の原卵1ダース当たり、いずれも米ドルベース)をまとめたものが表「IECレポーター報告による各国の採卵鶏飼料価格と生産コスト」

このうち、2020年の飼料価格が最も安いのはイランで127.30ドル。米国の制裁で激しいインフレが起きるなど経済が崩壊しているためで、現地通貨(イランリアル)ベースの価格は数倍に値上がりしているとみられる。

2位は米国の222.20ドル、次いでカザフスタンの227.00ドル、南アフリカの243.88ドル、ロシアの249.07ドル、アルゼンチンの250.00ドル、ハンガリーの254.04ドル、アイルランドの282.44ドル、オランダの283.87ドル、ペルーの286.46ドル、インドの297.73ドルの順で安い。

高い順では、日本の644.72ドル、スイスの586.03ドルが突出して高い。以下は、英国の387.08ドル、メキシコの377.26ドル、キプロスとスペインの370.51ドル、中国の370.14ドル、モンゴルの370.00ドル、フィンランドの353.41ドルなどとなっている。

飼料価格をドルベースで比較する場合は、各国のドルに対する自国通貨の強さが関係するため、各国の物価・賃金水準などを反映した実勢の価格水準は見えづらくなっているが、基本的には飼料原料となる穀物や油糧種子の主産地がある大陸の国々が有利な一方、穀物の輸入国、特に主産地から遠く輸入・輸送コストがかさむ山岳国や島国が不利となっている。

IECに報告されている日本の飼料価格は、農林水産省・飼料課の流通飼料価格等実態調査の配合飼料成鶏用バラ1トン工場渡し価格で、実際の生産者段階ではもっと安い価格が実態とみられるが、こだわりの飼料により卵のおいしさや品質などの差別化を図っている生産者では、まれにこの価格以上になっているものもある。

生産コスト

スイスの2020年の1ダース当たり鶏卵生産コストは3.20ドルとなっている。この要因として、前述の飼料価格の高さや、物価水準の高さに加えて、同国は1981年からケージ飼養を禁止しており、各種基準を満たした平飼い・放し飼い卵やオーガニック卵しか生産できないことが挙げられる。ただし、鶏卵の国内自給率は64%にとどまっている。

次いでオーストリアの2.57ドル、カナダの1.65ドル、日本の1.21ドル、キプロスの1.14ドル、フィンランドとスロバキアの1.11ドル、英国の1.10ドルの順で高い。

カナダの生産コストは隣国の米国の3倍弱、農家販売価格は2倍強の1.64ドル、平均小売り価格は5割高の2.19ドルとなっている。鶏卵の国内自給率は93%。これが維持できている要因として、同国では連邦政府の「供給管理システム」が続いており、州ごとの生産調整枠(クオータ)やGPセンターへの農家販売価格が関連組織により設定されていることが挙げられる。余剰卵も中央団体のエッグ・ファーマーズ・オブ・カナダか各州の関連組織が生産原価で買い取り、加工卵メーカーに直接販売される。この仕組みがカナダの家族経営農家と農村地域の安定につながっているが、同制度を守るための輸入枠の制限などが米国に批判されている。

米ドルベースの生産コストが最も安いのは、イランの0.42ドル、次いでインドの0.57ドル、米国の0.61ドル、アルゼンチンの0.65ドル、メキシコの0.69ドル、ロシアの0.70ドル、ペルーの0.73ドル、コロンビアの0.76ドル、中国の0.82ドル、カザフスタンの0.84ドル、オランダの0.86ドルなどとなっている。

農家販売価格と小売価格

各国のレポーターが報告した卵1ダース当たりの平均的な農家販売価格と小売価格をグラフ化したのが図「各国の平均鶏卵農家販売価格と小売価格」。

スイスの農家販売価格は生産コストを20セント下回っているが、同国は農家への直接支払い制度が非常に充実しており、基礎的な給付に加えて有機農法の導入、景観保護などに対する多様な補助金のほか、鶏では1施設当たり最大1万8000羽などの羽数制限の上で、所定のアニマルウェルフェア対応設備の導入で1UGB(家畜ごとの単位で鶏は羽数に0.01を掛ける)当たり280スイスフラン(約3万3500円)、放し飼いの導入で同290スイスフラン(約3万5000円、同時受給可能)などの所定の単価の補助金が設定されている。このほか販売奨励の支援策などもあり、これらの手厚い施策によって、同国の制度や地勢の下でも国内生産の維持が可能になっているとみられる。

2020年に農家販売価格がわずかでも生産コストを上回った国はオランダ、キプロス、ハンガリー、米国、モンゴル、メキシコ、ペルー、ロシア、カザフスタン、コロンビア、インドの11か国。今年は、飼料コストがさらに上昇しているため、より厳しい状況になっているとみられる。

農家販売価格と小売り価格については、差が大きいほど流通マージンの割合が高いことになる。割合が2倍を超えているのはイタリア(4.65倍)、オランダ(3.47倍)、フィンランド(3.20倍)、アイルランド(2.74倍)、スペイン(2.58倍)、南アフリカ(2.31倍)、スイス(2.15倍)、米国(2.01倍)。日本は1.95倍となっている。