2019年の養鶏産業の課題

需給の安定と日本型AW実現を

養鶏産業を取り巻く経営環境は今年、さらに厳しさを増すとみられている。

先人の努力と創意工夫により、誰もが入手できる動物性たんぱく源となった卵と食鳥肉。近年は研究の進展で機能性への評価も高まり、長寿社会における人の健康維持にも不可欠な食材と認識されるようになった。それらは着実に、需要の伸びに結び付いている。

ただ、昨年はそれを上回る生産と輸入の伸びで需給バランスが崩れ、相場は鶏卵、もも肉・むね肉のいずれも前年を約30円も下回った。今年はTPP11と日欧EPAの発効も加わり、供給増から相場の低迷は続くとの見方が強い。飼料・物流費など諸コストも高騰している。

対策としては、個々の企業では需要に見合う供給に徹し、損失を抑える取り組みが重要になる。

業界全体では、地道ではあるが安全・安心・新鮮・おいしさなど国産の優位性や優れた機能性を、国内外の消費者や川下の各業界にこれまで以上に広く発信し、消費の拡大に取り組むことだ。そのためには、日本養豚協会が国産豚肉の消費拡大や安定生産の確保へ向け検討を進める『養豚チェックオフ制度』も参考になるかもしれない。さらには、現行の鶏卵生産者経営安定対策事業を、養鶏安定法に基づく制度とする取り組みも重要になる。

欧米では、アニマルウェルフェア(AW=動物福祉)のためとして、採卵養鶏の非ケージ化が進められている。ただ、非ケージ=AWとの論理には、実際に鶏を飼養した経験を持つ人々が多くの疑義を呈している。

動物衛生の向上を目指すOIEも現在、採卵鶏のAW基準の二次案をコード委員会から加盟182か国・地域に示し、意見を求めている。同案では「営巣の区域」や「止まり木」を『備えるもの』としていることが、生産者から「非現実的」などと指摘されている。

日本の採卵養鶏も平飼いから出発したが、コクシジウムなどから鶏を守るために、鶏を土や鶏糞から分離した。一時期はすのこを敷いていたが、金網のケージに変わり、それが積み重なって現在の多段式になった。自動給餌・給水や除糞、換気や温度の環境コントロール技術、ワクチンを中心とする鶏病管理技術の進歩もあって飼養環境は快適になり、鶏が病気や他の鶏の攻撃に苦しむことは少なくなった。同時に鶏の改良も進み、その過程で鶏は必ずしも巣箱や止まり木を必要とせずにケージ内で産卵するようになり、衛生的な卵が人々に安定供給されるようになった。

仮に非ケージ飼養のみで鶏卵を供給することになれば、国産鶏卵の供給量は現在の半分以下に減る可能性や、疾病の多発も懸念される。世界的に薬剤耐性対策が叫ばれる趨勢に逆行し、薬剤使用を余儀なくされることにもなりかねない。世界人口は31年後に98億人に達し、食料需要は今より6割増えると試算され、地球温暖化による災害の常態化も指摘される中、飼料効率が最も良いケージ飼育は、経済性や生産性だけでなく、地球環境面からも最善のシステムと言える。

今年はこれらの課題に産業が一丸となって取り組むことで、人々の健康と生活を支えるサステナブル(持続可能)な養鶏産業と地球を次世代に手渡し、明るい未来が開けるような年にしなければならない。