名古屋コーチンの歴史や生産・販売を学ぶ 国産鶏普及協議会の現地研修会

稲垣種鶏場の育雛舎。40日齢で肥育舎に移す

国産鶏普及協議会(会長=日比野義人㈱後藤孵卵場社長)は8月29、30日の両日、愛知県で名古屋コーチンの歴史や生産・販売事例を学ぶ研修会を開き、会員と関係者が参加した。

初日は長久手市の愛知県農業総合試験場(敷地面積約160ヘクタール)を訪問。日比野会長は、系統造成用の白玉鶏、赤玉鶏、卵用名古屋コーチンなどの種鶏と実用鶏を合わせて採卵鶏約3400羽、肉用鶏(肉用名古屋コーチン)約4000羽、ウズラ約2700羽を飼養する同試験場が視察を受け入れたことに感謝するとともに、数ある地鶏の中でもいち早くブランド化に成功した名古屋コーチンを称えた。

さらに今夏の西日本での集中豪雨にも触れ、「当社GPセンターの契約農場を含め、道路が通行不能となって飼料が手に入らず、卵を出荷できない農場がみられた。鶏は強制換羽のような状態となり、これも関西と関東との卵価差の一因となっているのではないか」などと報告した。

来賓として出席した農水省生産局畜産部畜産振興課の赤松大暢課長補佐と、(独)家畜改良センター兵庫牧場の池内豊場長があいさつ。

同試験場畜産研究部の木野勝敏部長は一行を歓迎し、名古屋コーチンの誕生と歩みを「明治初期に旧・尾張藩士の海部壮平と正秀によって作出され、その後は県が115年間にわたって改良と普及に努めてきた」と紹介。現在、肉用の名古屋コーチンは年間約100万羽出荷され、卵用は約10万羽が飼養されているものの、一時は外国鶏の急速な普及に押されて〝廃止〟を覚悟したことも明かした。

暑い名古屋で育種改良した強い鶏

同部養鶏研究室の中村和久室長は『改良の歩みと生産振興』のテーマで講演。

昭和初期に卵肉兼用種として普及した要因については、今夏の中部地方の猛暑を引き合いに「高温多湿の名古屋で改良され、病気に強いことが大きかった」と説明。当時の他鶏種より性格が温厚で飼いやすかったことや、粗食に耐えて卵をよく産むことなども特徴として挙げた。

昭和30年前後には毎年約500万羽のひなが県内外に出荷されたが、同37年に始まった『ひな輸入の自由化』により外国鶏が市場を席巻。名古屋コーチンは一時、「絶滅危惧種に近い状態」(中村室長)まで追いやられたが、これを『絶やしてはならない文化』として捉える産官学の関係者が奮起。昭和48年からは高級肉用鶏として、富山県で保存されていた大型のコーチンを素材鶏に育種改良を始めて復活を図った。

平成のグルメブームもあり肉用名古屋コーチンの年間出荷羽数は約120万羽まで伸びたが、2008年にはリーマンショックのあおりを受け減少。しかし、畜産品の中でも指折りのブランド力と地道な販促活動で再び羽数を伸ばし、現在では肉用と卵用の合計で110万羽まで回復している。

中村室長は、ブロイラー全盛の時代にあって一定の需要を得ている理由を「やわらかい鶏肉が当たり前となる中で、昔ながらの『かしわの味』を求める層や、高くても本当に良いものを求める層からの支持がある。流通側からも相場に左右されにくい点が受け入れられている。生産面では通常120~150日間飼うため(農場の回転数が少なく)高齢農家の負担軽減につながる」などと説明。同試験場としては消費拡大の一助となるよう、肉や卵のおいしさを数値化する数々の試験を実施していることも紹介した。

種鶏場を小牧に移転・新設予定

養鶏研究室の沼田正純主任は『名古屋コーチンの育種改良および就巣性・喧騒性対策』について説明し、①県は優れた系統を開発・維持するために外部からの遺伝子を導入して遺伝的多様性を維持していく②肉用および卵用のメス系原種鶏となる新系統『NGY8(名古屋コーチン=NaGoYaからとった名称。県で保有する8番目の系統)』を開発して生産性向上を図っていく③就巣性と喧騒性については大学などと連携しホルモンやアミノ酸といった関連する物質の影響を調査中――と情報提供した。

県は名古屋コーチンの増殖機関の畜産総合センター種鶏場(安城市)を小牧市に移転・新設すると発表しているが、木野部長によると「現在の種鶏場では年100万羽程度の供給が限度。需要は150~200万羽分に伸びる可能性があるため、コーチン発祥の地とされる小牧市での新設が進められている」とのことであった。

長期肥育農場の稲垣種鶏場へ

2日目は、肉用名古屋コーチンのメスのみを150~170日間かけて肥育し、肉だけでなく卵も直売する㈲稲垣種鶏場(稲垣利幸社長―本社・春日井市)を訪問した。

車両消毒や靴カバーの着用後に見せてもらったコマーシャル農場(小牧市)は、育雛舎が2棟、2500羽収容の肥育舎が3棟。

5年前に全棟建て替えた肥育舎にはベンコマチック社(日本代理店の東西産業貿易㈱から設備導入)のネストシステムが設置されている。卵は美しい桜色の卵殻が特徴。岐阜県にも2農場があり、すべての農場を合わせた最大収容羽数は約3万羽。

これほどの長期肥育にこだわるのは、稲垣利幸社長の経験に基づく「コーチンは卵の産み始めのメスが一番おいしい」との信念によるもの。肉にうま味をのせつつも、魚粉は与えず、植物性のたんぱく源でくさみを徹底的に抑えている。

肉用鶏でありながら、100日齢まではレイヤーの中雛用飼料を給与し、以降は特注の配合飼料(CP16%、ME2950キロカロリー)に切り替える。産卵前には丸栄㈱のかき殻飼料を混ぜて卵殻を強化。稲垣社長は「これを与えるとかなり違ってくる」と話す。出荷時点の体重は2.8~3㌔になる。

このほかには、①鶏を肥育舎に移す際は混乱を防ぐため数回に分ける②肥育舎にパネルを数枚立てることで、大きな音などで鶏が走った際も進行方向が分散するようにしている(圧死対策)③オールイン・オールアウトを徹底し、需要が落ち着く夏場などは無理に導入しない④暑熱時はスプリンクラーで農場(鶏舎外)を冷やす――などの工夫をしていると紹介した。

コーチン肉の直売所も人気

春日井市の本社敷地内には処理場と直売所があり、県道沿いの店舗では朝7時から夕方5時まで名古屋コーチンの各部位と卵を販売している。

視察時の価格は、もも・むね・ささみのセットが『半羽』の商品名で100グラム380円(1袋1500~1600円)。手羽元は同110円、手羽先は同120円、せせりは同170円、砂肝は同160円、きもは同140円。こま切れ肉を袋詰めにした『正肉切り込み』は1袋310グラム入りで1000円、卵は約1キロ入りの『平飼い名古屋コーチン卵』が450円で、立派な収入源になっているとのこと。

処理・販売部門を担う稲垣利正取締役は、売り場面積のうち多くを割く『半羽』の販売戦略について「地鶏の場合はもも・むねをバランスよく売り切らないと大変で、すべてを食べつくしてもらえるように意識している」と強調。名古屋コーチンの新鮮な砂肝やきもは、販売価格を抑えていることと、その希少さから朝7時のうちに完売することも多いという。生鮮品を完売できないと感じれば急速冷凍をかけ、冷凍品は1割程度安くして提供。本物の名古屋コーチンをお得に買える店として地域で親しまれ、周辺の工業団地を訪れる出張者にもリピーターが多いようだ。

全日程を終えた一行に稲垣利幸社長は「地鶏は無理に増羽するものではなく、食の安全を徹底し、鶏にストレスを与えないようにして飼うことが大事。良い商品なら料理人は安心して使ってくれる。今後も責任をもって生産を続けていきたい。(独特な飼い方については)こういう人間もいるということ」と、にこやかに話した。