京都で「国際たまごシンポジウム」 最先端の研究成果を発表

世界から255人が出席

「国際たまごシンポジウム(International Egg Symposium)in京都2018―卵の安全性と栄養・調理・健康機能―」が10月16、17の両日、京都市のメルパルク京都で開かれ、国内外の著名な卵の研究者や鶏卵業界の関係者ら255人が出席。うち日本の鶏卵産業関係者も約140人参加した。

日本の鶏卵の賞味期限(生食できる期限)の算出に大きく寄与した『ハンフリー理論』の構築や、『ライオンエッグ』認証スキームで現在も義務化されている英国鶏卵産業へのサルモネラワクチン接種の導入などに取り組んだトーマス・ハンフリー博士ら18人が講演。卵の生産・加工技術や衛生のさらなる向上、さらに人々の健康にも寄与する卵の幅広い可能性について、最先端の研究成果が発表された。

同シンポジウムは、カナダ・アルバータ大学農業食品栄養学部の家禽研究センターが創設した「バンフ・エッグ・フォーラム」が1992年に、鶏卵の新たな用途や加工技術の開発をテーマとして始めた学術会議。6~8年ごとにアルバータ州バンフで開かれていたが、2012年以降は2年ごとにカナダ国内と国外で交互に開催されるようになり、今回が第7回大会となる。

今大会は、日本の卵の研究団体を代表する日本たまご研究会(松田治男会長=広島大学名誉教授)と、タマゴ科学研究会(菅野道廣理事長=九州大学・熊本県立大学名誉教授)が初めて共催する形で運営。事務局は㈱ナベルとキユーピー㈱が担当し、大会会長は京都女子大学の八田一教授と、アルバータ大学のジャンピング・ウー教授。名誉会長は菅野理事長と松田会長が務めた。

シンポジウムの冒頭、八田氏と岐阜大学の渡邊乾二名誉教授(タマゴ科学研究会理事)、ウー氏が登壇してあいさつ。

八田氏は、多くの出席者や講演者、企業・団体の協力に謝意を述べたうえで、日本の鶏卵消費や研究開発の状況について「最新のデータでは、日本の1人当たり年間鶏卵消費量は333個と、メキシコに次いで世界2位となっている。多くの卵料理があることも誇りに思っており、鶏卵加工品も非常に多い。鶏卵を生食することでも知られている。このような食文化を支える卵の鮮度と安全性、さらに加工技術、研究開発力は世界トップレベルにある」とし、大会のプログラムを紹介。

卵は研究対象としても、栄養学や生物学、化学、薬学、医学、分子生物学など幅広い分野から注目されていることに触れ、「卵には、そこから〝ひよこ〟という生命が生まれるほどの栄養素が含まれることから『生命のカプセル』とも呼ばれる。我々の健康に役立つ生理活性物質の宝庫でもある。卵は過去数千年間にわたり、世界で貴重な栄養源として食べられてきたことは疑いない。約2500年前のギリシャにおいて、医学の祖とされるヒポクラテスは『汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ』と言った。現代においても、ヘルシーな食事は健康を増進することが広く理解されている一方、肥満や糖尿病、高血圧といった生活習慣病が問題となっている。このため、我々は現代において『卵を汝の薬とし、汝の薬は卵とせよ』と宣言したい。世界10か国から素晴らしい出席者を迎えた国際的なシンポジウムを楽しんでいただくとともに、最新の科学的情報が共有され、京都から世界に発信されることを願っている」と述べた。

日本の鶏卵研究の発展に多年にわたり貢献してきた渡邊氏は、日本たまご研究会とタマゴ科学研究会が近年、相互交流を深めてきたことを紹介したほか「卵には、まだまだ知られていない魅力がたくさんあり、今も新しい発見が次々となされている。長年にわたるコレステロール問題がほぼ解消され、日本では、健康に良い卵を毎日2個食べようとの消費促進運動がなされている。今後は、卵のコレステロールの機能を世の中に伝えていかなければならない。卵アレルギーについても、素晴らしい研究成果が本シンポジウムでも発表される。卵は今後、全世界でますます重要な食料資源となっていくと考えているが、このような資源を有効に活用するためにも、科学的な裏付けが必要であり、卵の研究者が今後ますます増えることを祈っている」と若い研究者にエールを送った。

ウー氏はあいさつの中で、カナダ国内で開催していたバンフ・エッグ・フォーラムが国際的なシンポジウムに発展してきた経緯を紹介し、「今回、素晴らしい大会が、この美しい京都で開催されるに当たり、八田教授のリーダーシップに感謝申し上げる。卓越した講演者らと積極的に意見を交わすとともに、日本の文化も積極的に体験してほしい」と各国の出席者に呼びかけた。

講演プログラム

講演プログラムでは、トーマス・ハンフリー博士(英国スウォンジー大学医学部細菌学・食品安全学教授)が「ニワトリにおけるサルモネラとカンピロバクターの腸管外拡散」、菅野道廣九州大学・熊本県立大学名誉教授が「卵とコレステロール・敵それとも味方?」、米国農務省(USDA)国際マーケティングスペシャリストのマーク・ロブスティーン氏が「鶏卵の安全安心とは・アメリカの取り組み、世界の今」、京都女子大学の八田一教授が「卵の安全性を示す指標としての卵黄係数」をテーマに基調講演。

国立農業研究所(フランス)のイヴ・ニス氏が「卵殻の強度を制御するための卵殻形成メカニズムの理解」、東京大学大学院の加藤久典特任教授が「卵殻膜の有用性」、国立病院機構相模原病院臨床研究センターの海老澤元宏副センター長が「鶏卵アレルギーの管理の進歩」、産業技術総合研究所の大石勲研究グループ長が「始原生殖細胞を用いた鶏へのゲノム編集―低アレルゲン卵と金の卵の創出―」、大連理工大学(中国)の徐永平氏が「IgYを用いた動物の疾病制御」、バングラデシュ農業大学のハミデル・イスラム准教授が「孵化場の精密な管理・運営を目指した分光技術の応用」、東京家政大学の峯木眞知子教授が「日本料理でのタマゴのおいしさについて」、国際FFIコンサルタント社(カナダ)のヴィンセント・ギョネ氏が「南米・アフリカ・アジアからみた卵の重要性」、バウハウス・エントホーヴェン社(オランダ)開発・品質保証担当役員のヤン・サイダーヴェルト氏が「欧州での鶏卵製品事情・市場の要望に応える卵の奥深さ」、鹿児島大学のイブラヒム・ヒッシャム教授が「卵白ペプチドで治療・炎症性疾患と、がんを治療する新しい生物医学的可能性」、ゲルフ大学(カナダ)の峯芳徳教授が「生体機能性卵ペプチド」、アグロキャンパスウエスト(フランス)のフランソワーズ・ナウ教授が「リゾチームの乾燥加熱が抗菌力に及ぼす影響について」、お茶の水女子大学寄附研究部門の岸本良美准教授が「鶏卵摂取が血清脂質、抗酸化指標に及ぼす影響」、アルバータ大学(カナダ)のジャンピング・ウー教授が「抗酸化食品としての鶏卵」について講演した。

ポスター発表も

ポスター発表は25題(このうち著者らが登壇してプレゼンテーションしたのは23題)あり、「幼児のアレルギーへの卵黄の影響」「卵を使うことで、狂犬病の検査にかかる費用を抑える技術」「卵白ペプチドによるアスリートの血中抗酸化力の改善」「卵白のたんぱく質によるメタボリックシンドロームの改善」「卵白の成分のオボトランスフェリンが持つ骨の健康を助ける効果」「オボトランスフェリンが狙ったがん細胞に薬を送り込む乗り物(ドラッグデリバリーシステム)に使える可能性」「血圧上昇抑制効果を持つオボトランスフェリンに含まれるトリペプチドの細胞レベルでの働き」「肉用鶏の種卵を使った孵化前の雌雄鑑別」「種卵の雌雄での卵殻の厚さとスネの長さ、胚の運動の違い」「アミノ酸バランスを改善した飼料での鶏糞排出量の削減」「保存しやすいロングライフ卵黄液の製造」「ロングライフ卵黄液のスイーツへの応用」「鶏の週齢による卵の調理特性の違い」「医薬品や化粧品に広く利用されているコレステロールやリン脂質などの有用成分を卵黄から抽出する技術」などについての研究成果を発表。

入賞者は16日の懇親会で発表され、1位は卵を使うことで狂犬病の検査にかかる費用を抑える技術(研究タイトルは「プラスミド免疫法によるrabies virusのN蛋白質に特異的なIgY抗体作製法の開発」)について発表した京都女子大学の久保七彩(ななせ)さんが獲得。各入賞者には賞品が贈られた。