アニマルウェルフェア鶏肉を販売 信州大学農学部

「ナカマチック養鶏研究棟」で飼育

「アニマルウェルフェアを知ってほしい」と話す竹田謙一准教授

「ナカマチック養鶏研究棟」の外観

1平方メートル当たり11羽の密度で飼育

信州大学農学部は、アニマルウェルフェア(AW)に配慮した肉用鶏の飼育施設「ナカマチック養鶏研究棟」で生産した鶏肉の販売を、3月3日から伊那キャンパス(長野県南箕輪村)内の直売所で始めた。

昨年7月に畜産用機器メーカーの㈱中嶋製作所(中島功雄社長―本社・長野市)から「ナカマチック養鶏研究棟」の寄贈を受けた信州大学農学部では、動物行動管理学研究室の竹田謙一准教授を中心に、AWの国際基準やEU基準などの考え方を採り入れつつ、日本の生産実態に合わせたAW型の肉用鶏飼育管理技術の開発を進めている。

今回販売した鶏肉は、昨年12月21日にえ付けし、2月1日に山梨県の食鳥処理場に出荷した310羽分。

AWに配慮した生産面について、竹田准教授は「飼育密度を1平方メートル当たり11羽にしたことにより、フィーダーへのアプローチが容易となり、41日齢での出荷となった。海外での取り組みが始まっているスローグロース(Slow growth)の流れと逆行したが、脚弱による規律不全は認められなかった。暗期を連続2時間設けたが、生産性(飼料効率、出荷時体重、接触性皮膚炎の有無と程度)に影響はなく、今後の試験ではさらに暗期時間を延長する方針。生産性が変わらず、AWに対応できて、節電につながるのであればよいと感じた。

止まり木を肉用鶏の生産で用いた。飼育スペースの関係で全羽が一度に止まり木を利用することはなかったが、複数個体で利用が認められた。ただ、降り方が上手でなく、ひっくり返る個体も見受けられ、改良が必要と感じた」と評価しており、今後も低コストで簡易に実施できるAW飼育方法を提案する中で、飼育した鶏を順次出荷する予定。

鶏肉には「アニマルウェルフェア(動物福祉)に配慮して生産された鶏肉です」などと書かれたシールを貼り、伊那キャンパス内の直売所で、むね肉1500円(1袋2キロ入り)、もも肉2000円(同)、手羽元1300円(同)で販売している(冷凍、税込み)。

竹田准教授は「販売単価は近隣のスーパーでの販売価格を参考にした。可能であればAWを付加価値としてとらえ、市販価格より5~10%を上乗せしたかったが、今回はAWを知ってほしいという考えから、このような価格を設定した。

大学がAW畜産物を販売するのは、おそらく全国初だと思う。今後、消費者の方にAWについて関心を持っていただくとともに、肉用鶏の生産、ひいては家畜の生産に関心を持っていただき、生産者と消費者とのつながりができることを期待している。このつながりがなければAWの普及はないと思っているので、このことによりAWを知っていただきたい。

また、このような生産物を召し上がっていただくことで、一般の皆さんもSDGsの取り組みに参加いただき、エシカル消費(つくる責任、つかう責任)を進めていただければと思う。

生産者の目線で考えると、確かに手間がかかることも多くある。それゆえ、本来の姿としては、消費者に飼育方法を共感いただいて、多少なりとも増加する生産コスト分を消費者の皆さんに負担いただくことで、お互いが幸せ一杯になることを望んでいる。養鶏を含め、畜産農家は地方に多く点在している。このような取り組みにより、そこで営んでおられる畜産農家が経営として成り立ち、結果として地域振興にもつながることを期待している」と話している。

鶏肉の販売に関する問い合わせは信州大学農学部付属施設係(電0265-77-1318)へ。